取締役・副社長 寺師 茂樹
取締役・副社長 寺師 茂樹

トヨタは、環境問題を経営の最優先課題と位置づけ、「省エネルギー」「燃料多様化への対応」「エコカーは、普及してこそ環境への貢献」を基本方針として取り組みを進めてきました。そして2015年に発表した「トヨタ環境チャレンジ2050」において、2050年にグローバルでの新車平均で走行時のCO2排出量を2010年比で90%削減する「新車CO2ゼロチャレンジ」を掲げています。これらの取り組みの結果、1997年のHV「プリウス」販売開始以来の電動車累計販売台数は約1,400万台(2019年7月末現在)となり、これによるCO2排出抑制効果は1億1,300万トン以上になると試算しています。

2017年には、「トヨタ環境チャレンジ2050」のマイルストーンとして2030年の新車販売においてHVとPHVで450万台以上、EVとFCVで100万台以上、合計で電動車を550万台以上とする目標を発表しました。こうしたなか、電動化は足元の販売で目標を上回るスピードで進展しています。

近年、大雨などの異常気象、自然災害による被害が世界的に多発しています。地球温暖化問題の解決に、もはや猶予はありません。さらに大気汚染、エネルギー問題など解決しなければならない課題は山積みです。これら地球規模の課題に対応するには、自分の生まれた町や国を愛するように、世界のすべての人々の故郷である地球を愛し、この美しい故郷を次世代に責任を持って引き継いでいく、すなわち「ホームタウン」「ホームカントリー」に加え、「ホームプラネット」という視点が求められています。トヨタは、「ホームプラネット」の精神でこれらの課題に取り組んでいます。

地球温暖化防止に向けた規制強化、政策導入が相次ぐ

自動車に関わる重要な環境規制では、次の二つの動向が注目を集めています。

一つがCO2規制・燃費規制です。企業平均燃費で各自動車メーカーに対して実際に販売した車両全体の平均燃費を算出し、それを規制する仕組みです。CO2排出量低減に対する要求レベルは年々高くなり、この制度の導入国も増えています。企業平均CO2・燃費改善には、さらなる技術革新だけでなく、燃費の良いクルマを軸とした車種構成への転換が必要となります。例えば、欧州のCO2規制について、17年の規制値に対しては業界トップですが、2025年規制に対しては、現行の「プリウス」は規制レベルを充たすものの、SUVなど比較的重いクルマはHVでもクリアすることが難しく、PHV、EV、FCVの普及拡大が必要となっています。

欧州CO2規制対応

もう一つが、アメリカやカナダの一部の州で導入されているZEV(Zero Emission Vehicle)規制、中国のNEV(New Energy Vehicle)規制。一定の生産台数を超えるメーカーにEV・FCVといった車両を一定比率以上販売することを義務づけています。つまり、走行中にCO2を排出しないクルマを増やす政策であり、今後各国でこのような規制導入の動きが活発化していくと予測されます。そのほかにも、さまざまな奨励策(補助金、乗り入れ規制、走行レーン優遇など)があります。

地球規模でCO2を削減していくには、HVやPHVでラインアップ全体の燃費を改善しつつ、規制・奨励策がなくとも、お客様に従来車と遜色なく選んでいただけるZEVを早急に揃えていかなければなりません。トヨタは強い想いのもと、電動車の普及に向け、さまざまな取り組みを進めています。

CO2削減に向け、電動化技術・システムの提供を拡大

トヨタは1997年に初代「プリウス」を発売以来、電動車に欠かせない要素技術を20年以上にわたり磨き上げるとともに量産技術を確立、年間160万台規模の生産体制をグローバルに実現してきました。特にモーター、バッテリー、パワーコントロールユニット(PCU)は、車両電動化のコア技術であり、HV、PHV、EV、FCVのすべての電動車で活用可能です。つまり、これまで積み重ねてきた基盤こそが、トヨタの強みであり、将来の電動車普及に大きく貢献できると考えています。

近年、HVなど電動車の開発・導入に取り組む多くの企業から、車両電動化システムに関する問い合わせを受けることが増えてきました。そこでトヨタは、電動車普及の必要性が高まっている今こそ協調して取り組む時と考え、車両電動化技術のシステムサプライヤーとなり、これまで培った車両電動化技術をさまざまな企業に提供することにしました。

これまでもトヨタは、知的財産(特許)の取り扱いについてオープンポリシーを基本とし、第三者からの実施の申し込みに対しては、適切な実施料により特許実施権を提供してきました。2015年には燃料電池関連の特許に関し、トヨタが単独で保有しているFC関連の特許の実施権を無償で提供する取り組みを始めていました。

今回はさらに、トヨタが20年以上にわたるHVの開発で培ってきたモーター、PCU、システム制御等の車両電動化技術に関する特許(約23,740件)についても、その実施権を無償で提供することにしました。加えて、トヨタが保有するパワートレーンシステムを活用して電動車を開発・製造する際には製品化に向けた技術サポートも行うこととしました。

電動車普及に向けた取り組み

こうした取り組みにより、各社の電動車開発が加速されれば、CO2削減のスピードも速まることになります。今後も多くのステークホルダーの皆様と協力しながら、地球規模での電動車の普及に貢献していきたいと考えています。

トヨタのEV普及に向けた本格展開

社内ベンチャーとして立ち上げたEV事業企画室を母体に、FCV部隊も包含して設立した社内組織「トヨタZEVファクトリー」がEVの企画開発を行っています。

電動車のうちEVでは、トヨタが「歩行領域」と呼ぶものから、2人乗りの超小型、そして乗用車まで幅広く開発を進めています。2017年12月に発表した「2020年に中国を皮切りにEVを本格投入、以降グローバルに車種を増やし、2020年代の前半には10車種以上とする」との目標に向け、2019年4月の上海モーターショーで「C-HR/IZOA」を発表するなど、計画どおり、準備を進めています。

主なゼロエミッションビークル(開発コンセプト・走行実証、システム提供含む)

さらに今後のEV普及を念頭に、「協調」の姿勢でオープンに仲間を募り、新たなビジネスモデル構築をめざす取り組みをスタートさせました。これは、単にEVを開発製造し、販売店に卸し、お客さまに届けるという従来の発想にとらわれず、より良い社会への貢献を視野に、志を同じくする仲間をオープンに幅広く募り、新たなビジネスモデルを構築するものです。

トヨタが考えるEVビジネスモデル

具体的には、耐久性の高い高性能な電池で商品力を向上させるとともに、製造から廃棄までEVおよび電池を最大限に活用し、普及における課題に対応していきます。販売に加えてリースも充実させ、確実に回収、使用後の電池の状態を査定し、中古車として流通させるとともに、電池を補給部品やクルマ以外の用途に再利用して使い切ります。また、お客様に安心してご利用いただけるように、充電サービスや保険などの周辺サービスもEVに最適なものを整備します。このようなビジネスモデルをさまざまな分野のパートナーの皆様と一緒に構築していきたいと考えています。

日本超小型EVを活用した新たなビジネスモデル構築をスタート

トヨタは、日本では小型・近距離、法人利用などにEVの新たなビジネスチャンスがあると考えています。まず定員2名で軽乗用車より小さく、一充電で100km程度走行できる「超小型EV」を2020年に発売予定です。免許取り立ての若い方や高齢の方の日常の移動を支える取り回しのしやすいクルマです。これよりもさらに小さい3輪のEV「i-ROAD」については、都市部や観光地でのシェアリングサービスなどを想定した公道での実証実験を重ねています。

さらに人が歩いて移動する範囲をカバーする「歩行領域EV」も、2020年の発売をめざして準備中です。立ち乗りタイプのほか、座り乗りタイプや車いす連結タイプを2021年に発売の予定です。

こうしたEVのラインアップを揃えることで、お客様一人ひとりのライフステージに合わせた安全・安心な移動の機会を提供していきます。また、これらEVの普及にあたっては、開発・販売から廃却まで一貫したビジネスモデルを念頭に、それぞれの分野における事業パートナーや、EVをご利用いただく自治体の方々と具体的な話を進めています。今後も、想いを共有する多様なステークホルダーとともに、地域やお客様のニーズに寄り添い、生活を支援する取り組みを進めたいと考えています。

中国・米国・欧州などでのEV展開

EV需要の高い市場に向けては、ニーズの異なるさまざまなお客様に選んでいただくため、必要十分なバリエーションをリーズナブルな価格で提供できるよう、効率的な開発に取り組んでいます。具体的には、お客様のニーズを整理し、複数のバリエーションを考えています。それぞれのバリエーションについては、株式会社SUBARU、スズキ株式会社、ダイハツ工業株式会社など得意分野を持つパートナー企業と共同で企画・開発を進めています。さらに、比亜迪股份有限公司(以下BYD)とEVの共同開発契約を締結し、2020年代前半にトヨタブランドでの中国市場導入をめざし、EVの開発とその車両などに搭載する電池の開発を進めています。

グローバル展開のEV

世界トップレベルの電池を開発・供給

電池は、電動車に共通するコア技術であり、クルマの性能を大きく左右します。トヨタはHV1,400万台の販売により、このコア技術に磨きをかけてきました。例えば、トヨタのHVは高効率なシステムとなっており、少ない電池容量で低燃費を実現することができます。同じくEVの性能に大きく影響する電池の耐久性、すなわち、長期間使用した後の電池の残存容量においても、プリウスPHVは2012年発売の初代、2017年発売の2代目ともに当時としてはトップレベルの電池の耐久性を実現しました。2020年に導入するEVではさらに高いレベルをめざし、グローバル展開のEVが市販化される際には、そのさらに上、世界トップレベルの性能を達成すべく継続して開発を進めます。

電池の耐久性能

電動車への期待はトヨタの当初の想定を超えて高まっており、HVやPHVより大きな容量の電池を必要とするEVの本格的な普及にも備えなければなりません。電池調達についてはパナソニック株式会社と共同でプライムアースEVエナジー株式会社を1996年に設立したことに加え、新たな合弁会社を2020年末までに設立することで合意しています。

さらに地域のさまざまなニーズに迅速に対応するため、寧徳時代新能源科技股份有限公司(CATL)、BYD社、株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション、株式会社東芝、株式会社豊田自動織機と協調、連携し、電動車普及の要となる電池調達体制を整えていきます。

電池調達および協業の体制

EVを普及させる、お客様に選んでいただけるEVを準備するためには、車両の開発、電池の安定的供給や耐久性能の向上、使用後のリユースなどへの備えなど、やるべき事がたくさんあります。トヨタは、新しいビジネスモデルの構築など体制づくりを着々と進めています。より良い社会への貢献を視野に、これまでより幅広くオープンに仲間を募り、想いを共有する皆様と一緒にこの取り組みを加速させていきます。

究極のエコカーFCV普及に向けて

トヨタは、水素を「将来の有力なエネルギー」と位置づけるとともに、FCVを社会への貢献度の高い「究極のエコカー」と捉えています。FCVを普及し、水素社会を実現するために、乗用車の普及とともに商用車導入による相乗効果で、水素需要の拡大をめざします。まず、台数の多い乗用車に向けたFCV開発で、継続的な性能向上とコスト低減を図ります。それを、台数は少ないものの、台あたりのエネルギー消費量が大きい商用車に応用することで、水素需要拡大による水素価格低減やインフラ整備拡大に貢献していきます。

乗用車では、2014年発売の「MIRAI」が世界累計販売台数約1万台となり、FCV普及をリードしてきました。トヨタは、2020年後半にFCシステムをすべて一新し、燃料電池自動車としての性能を大幅に向上させるとともに、水素搭載量拡大などにより、航続距離を従来型比で約30%延長した「MIRAI」の次期モデルを投入する計画で、これに合わせてFCVの生産能力を大幅に引き上げます。

MIRAI Concept(東京モーターショー2019出展)
MIRAI Concept(東京モーターショー2019出展)

商用車に関しては、米国でFC技術の活用による貨物輸送のゼロ・エミッション化をめざしたロサンゼルス市港湾局のプロジェクトにFC大型商用トラック10台を導入予定です。また、廃棄物系バイオマスから水素を取り出し、「溶融炭酸塩型燃料電池」で発電を行う「Tri-Gen」を建設し、先の「FC大型商用トラック」の燃料充填などに活用します。さらに、移動体以外の水素燃料活用にも取り組んでいきます。

来年、東京で開催されるオリンピック・パラリンピックでは、トヨタはワールドワイドパートナーとして、約500台のFCVをはじめ、FCバス「SORA」、FCフォークリフトを導入し、水素社会の一部を世界にお見せする予定です。

Tri-Gen
水・電気・水素の3種類を生み出すことから、Tri-Generationの意味

2019年12月
取締役・副社長 寺師 茂樹