クルマと愛とサウンドを語らせたら終わらない2人が、レースの楽しさを、実際のレースやレースをめぐる人たちなどを訪ねながら紡ぐオリジナル連載のスタートです。

はじめに

僕の好きな車

クレイジーケンバンドのリーダーでボーカルの横山剣さん。生粋のCar Guyだ。二番目のお父さんはトヨタの販売店、芝営業所に勤めるCar Guy。まだお父さんになる前、彼はお母さんにパブリカを売りつけた。横山さんはレーサー志望だったお母さんの運転で自宅のあった日吉からドライブ。横浜バイパスを通って、横浜ドリームランド(1964~2002)という遊園地に遊びに行ったという。親子二代、自動車とは切っても切れない関係がある。

そして横山さんは車が大好きだ。
「5歳の時、本牧で目撃したムスタングから体に電流が流れるような衝撃を受けて以来、僕はずーっと自動車に夢中になりっぱなしの人生を送ってきました。子どもの頃は、横浜や青山を歩き回ってかっこいい外車の写真を撮影したり、アイドルの追っかけみたいにカーレーサーが出没しそうな場所で張り込んだりしたし、待望の免許を取ってからは、いろいろと車を買い替え、時には草レースにも出場しています」(『僕の好きな車』横山剣 立東舎)

しかも、横山さんはレーサーとしても将来を嘱望されている。2018年12月に開催された斯界の代表的な40分耐久レースで優勝。実力を見せつけた。

僕の好きな車

音楽家とレーサーの意外な関係

横山 剣
(写真 : Eisuke T.)

かつて、ミュージシャン、音楽家にとって車とレースはなくてはならないものだった。福沢幸雄、式場壮吉、かまやつひろし、ミッキー・カーチス…、いずれもレーサーでありながら音楽家だった。思えばあの小澤征爾はラビットスクーター(富士重工製 現SUBARU)に乗って初めて渡欧した。富士重工の講演を受け、マルセイユからパリまでギターを背負い、日の丸をつけたラビットスクーターで走った。途中、故障したら、自らメカニックとして修理した。そうして、フランス東部にある町、ブザンソンで開かれ国際指揮者コンクールで第一位になったのである。音楽家は車、スピード、レースと親しい関係にあった。

横山さんは小澤征爾、福沢幸雄以来の音楽とクルマ、レースの関係を体現している人だ。彼がこの「カーレース入門」を引っ張ってくれる先導車だ。

横山 剣
(写真 : Eisuke T.)

うちにやってきたスバル1100

一方、わたしも実はCar Guyです。父親は陸軍士官学校から陸大を出た軍人だけれど、敗戦後、富士重工に入って、ラビットスクーターの開発をやった。小澤征爾さんがヨーロッパに乗っていったスクーターのテストドライバーの役をやっていたのがわたしの父親です。しかし、父親は若くして亡くなる。すると、当時の富士重工は鷹揚なもので、「お子さんもいるので大変でしょうから、奥さんが働いたらどう?」と母親を雇ってくれた。

スバル1100ff-1スポーツ
(写真 : (株)SUBARU提供)

つまり、父親、母親とも富士重工で働いた親子二代のCar Guyだ。もうひとつ、付け加えれば、わたしが大学に入った年、亡くなった父親の親友という人がスバル1100ff-1スポーツという車を運転して、うちにやってきた。
「これ、キミのだよ」
死んだ友だち(わたしの父親)と約束したから、車をくれるというのだ。もちろん新車ではなかった。けれど、スバル1100ff-1スポーツは徳大寺有恒さんの『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)で特別、称賛されている国産車だ。「エンジンは水冷だが、バタバタと鳴るエンジン音はまさしくポルシェ356のフィールだった」

ともあれ。タダで車をもらってから、わたしは一層、好きになった。7年もかけて『トヨタ物語』を書いたのも、車が好きだからというのが大きな理由である。

さて、横山さんとわたしは豊田喜一郎、章一郎、章男と三代続けてのCar Guy、豊田家にはかなわない。けれど、車をとことん好きな気持ちでは負けない。

「ええ、なります」

本連載は車好きの人も車のことをよく知らない人でも楽しむことができるレース案内だ。横山さんとわたしは働く時間を切り詰めて、国内、海外のレース現場に通い、レーサーやレースを支える裏方たちに会いに行った。タイトルにあるように、出かける前に横山さんがシャウトした。
「Let's go to the Circuit!」
わたしが応えた。
「これ、そのままCKBの曲名になりますね」
もう一度、横山剣シャウト。
「そーそーそーそー、なります、ええ、なります」
本と曲が完成したら、聴きながら読んでください。

(続きは明日掲載します。)

著者

横山 剣(よこやま けん)
1960年生まれ。横浜出身。81年にクールスR.C.のヴォーカリストとしてデビュー。その後、ダックテイルズ、ZAZOUなど、さまざまなバンド遍歴を経て、97年にクレイジーケンバンドを発足させる。和田アキ子、TOKIO、グループ魂など、他のアーティストへの楽曲提供も多い。2018年にはデビュー20周年を迎え、3年ぶりとなるオリジナルアルバム『GOING TO A GO-GO』をリリースした。
クレイジーケンバンド公式サイト
http://www.crazykenband.com/
野地 秩嘉(のじ つねよし)
1957年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務、美術プロデューサーなどを経てノンフィクション作家。「キャンティ物語」「サービスの達人たち」「TOKYOオリンピック物語」「高倉健ラストインタヴューズ」「トヨタ物語」「トヨタ 現場の『オヤジ』たち」など著書多数
横山 剣・野地 秩嘉

以上

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