Nov. 12, 2016
カローラオタクとカローラ職人の超マニアック対談
小林:「お互いカローラへ関わり始めた原点なので、4代目からお話をお聞きしたいと思います。4代目セダンの前期モデルに採用された丸目4灯式ヘッドライトは大変印象的なのですが、これは当初から採用する予定だったのでしょうか」
大平:「4代目は開発段階で少し高級感を出したいという話がありました。企画段階では当時主流の丸目2灯式では少し高級感に欠け寂しい傾向となるため、丸目4灯式にしてインパクトを出そうと考え、はじめから丸目4灯式を採用することになっていました。4代目がデビューしたときはインパクトがありましたよね」
小林:「4代目のドアの開閉音が良かったと記憶しているのですが、やはりこだわりはあったのでしょうか」
大平:「はい。ドアの閉まる音ですとか、エンジン音などにはこだわりました。Cピラーにルーバー(室内換気用の樹脂製取り出し口)がありますよね。このルーバーは室内の喚起を含め空気を抜くためものなのです。ドアをバタンと閉めると、室内の空気は圧縮されますよね、すると空気の逃げ場がないのでドアは閉まりにくくなります。そのため空気を抜いてあげる必要があるのです。音は金属部品同士が噛み合うので、その部分に樹脂を入れて音を良くするようにしました。見えないところへのこだわりを持てば持つほど良いクルマになっていくのです」
小林:「5代目でセダンはシリーズ初のFF方式を採用するわけですが、その背景はどんなものがあったのでしょうか」
大平:「FFにすると、室内では、リアへ駆動をまわすプロペラシャフトがなくなるので、センターのフロアトンネルがなくなります。これにより開放感が出るのが最大の魅力です。FF化のメリットは、室内が開放的になることだけでなく、プロペラシャフトがなくなると軽量化にもつながるので、燃費も良くなることです。それで、次はFFしかないということで5代目に取り組むわけですが、スポーツ系のレビンはスポーティな走りをするにはFFでは物足りないのでFRとして残しました。バリエーションは増えてしまいますが、セダンはFF、スポーツクーペはFRと整理し、必要性を生産部門などにも納得してもらいました。また、モデル途中で2ボックスハッチバックの“FX”を設定しました。この時に“フルカラー仕様”として、トヨタで初めて、バンパー、サイドモール、マッドガード、ドアミラーなどをボディと同色にしました。それ以降、各メーカーも採用するようになりましたね」。
小林:「5代目ではデビュー時にCMキャラクターに郷ひろみを使うなど、割と若々しさを強調していましたが、マイナーチェンジでカローラらしいゴージャスイメージが強くなりましたが…」
大平:「5代目で若年ユーザーの取り込みをはかろうとして郷ひろみさんをキャラクターに採用しました。しかし、店頭掲示用のポスターが欲しいというお客様は大変多かったのですが、クルマ自体はなかなか売れない時期がありました。若返りをはかるためのデザインを採用したものの、開発段階から正式発売までのタイムラグなどの間にトレンドがずれてしまったようでした。前期型はエクステリアが平板すぎたので、マイナーチェンジで彫りの深さと豪華さを出すと、お客様の反応もがぜん良くなりました」。
小林:「6代目が我が家に納車されたときに、質感の高さに驚いたのを覚えています。とくにダッシュボードのソフトパッドが印象的でした」
大平:「メーターの上には“メーターフード(日差しよけ)”がありますよね。そこは硬い樹脂ではなく代々ソフトタイプを使ってきました。質感が良いのでカローラの特徴にしようと代々頑張って採用してきました。お客様が展示車に乗り込むと最初にインパネをさわる方が多いことも念頭に置いていましたね。10代目からはコストの関係もあり硬い樹脂に変更しましたが、安っぽくなってはいけないので、シボなどで工夫して質感は持たせてあります」
小林:「6代目でグレードにもよりますが、スーパーホワイトⅡのボディカラーを選択すると、内装色がマルーン(エンジ色)になりましたよね。なぜマルーンを採用したのでしょうか」
大平:「この時代にマークⅡがマルーンを採用して大ヒットしていました。カローラも大人の味、高級感を出すために採用しました。すると想定どおり、高級感ただよう外観意匠も含めて好評で、大ヒットしました」
小林:「一体成型天井でサンバイザーのところにくぼみをもたせて、サンバイザーを収納できるようにしましたよね。それと上級グレードではサンバイザーの裏側にも布が張ってありましたが、これもこだわりはあったのですか」
大平:「サンバイザーの“格納感”とでも言うのでしょうか。すっきり収まることは意識しました。サンバイザーの裏もビニールレザーでは質感が足りないのでファブリックを張ることにしました」
小林:「7代目で大平さんの印象に残っていることはどんなことでしょうか」
大平:「7代目はとくに北米の安全基準を意識して全長を延長し、前後の衝撃吸収代(しろ)を増やし、ドアの断面を厚くしたりしています。国内市場ではセレスという4ドアハードトップを設定しました。若い女性をターゲットにしたもので、“おしゃれなハードトップ”をめざし、エクステリアは丸みを強調しましたね」
小林:「8代目はそれまでの流れとは異なったモデルチェンジともいえますが…」
大平:「バブル経済が崩壊し、クルマの開発でも“原価低減”が強く求められるようになりました。そのような中で開発したのが8代目です。バンパーの一部やサイドモールも無塗装の黒い状態にするなど、原価低減を行っているのですが、やはり“上質感がない”とよく言われました。すぐに無塗装部分もカラード化するのですが、私たちが対応する前に販売店がそれぞれ自社で塗装するなどしていたようですね」
小林:「8代目はマイナーチェンジでかなりダイナミックな改良が行われましたよね」
大平:「国内仕様のあとに海外向けモデルもモデルチェンジをしているのですが、国内仕様とは相当異なるものでした。その海外向けモデルの一部をマイナーチェンジで共用することができたのです。それが大胆なマイナーチェンジにつながりました」
小林:「9代目では相当グローバルモデルということを意識していたのでしょうか」
大平:「グローバルモデルとしての意識もありましたが、8代目の販売が苦戦したので、そんな経緯もあって、新しいカローラを作るんだという“ゼロからの出発”を合言葉に9代目の開発を行いました。色んな装備も含めてかなり欲張ったモデルなのですが、クルマの出来は良く、大ヒットしました」
小林:「10代目はずいぶんサイズアップした印象があるのですが…」
大平:「自然な流れでサイズアップしていったのですが、次の11代目でサイズダウンしているように、特に日本市場向けのモデルとしては10代目ぐらいのサイズが限界かなあと考えていましたね」
小林:「11代目の視界性能の良さは抜群ですよね」
大平:「そうですね、視界の良さはこだわりました。それもあってか、一部の自動車教習所からは教習車として導入したいという問い合わせも多いようです。視界が良くて運転がしやすいことが関係しているのか、教習生の卒業も早いという話も聞きますよ」
小林:「大平さんのなかで、歴代モデルのなかでベストといえるのは何代目ですか」
大平:「やはり6代目ですね。大きさ、長さ、質感、高級感など、すべてにおいてバランスが良いクルマでした。でも、どのモデルでも時代ごとに最適な車を追求してきた自負はあります。私は2015年をもってカローラの開発現場からは退きましたが、これから先のカローラを手がける人たちには、歴代のカローラの精神を受け継ぎ、常にその時代のお客様が求める“ベター&ベター”なカローラを考えて欲しいと思います。そしてお客様には、いつの時代も進化し続けるカローラにぜひご期待いただきたいですね」
小林 敦志(フリーランスライター)
物心がついた時に家にあった4代目カローラを機に親子でカローラ好きに。気が付けばカローラ好きが高じて、カローラ店のディーラーに就職。さらにカローラを調べているうちに気がついたら自動車雑誌社に転職。その後フリーランスライターに。クルマも家族所有から数えてカローラを10台乗り継いできた。国内のカローラだけでなく東南アジアのカローラ事情、北米のカローラ情報に及ぶまでと幅広い。
大平 伸司(元・トヨタ自動車 カローラ製品企画エンジニア)
1968年トヨタ自動車入社。試作課配属の後、1977年に製品企画に異動しカローラを担当。以来、4代目カローラから11代目カローラに至るまで、約38年の間、一貫してカローラの製品企画を担当。2015年8月末をもってトヨタを定年退職。