May. 18, 2015
トヨタ自動車、燃料電池の触媒「白金」の挙動を
リアルタイムで観察できる新たな手法を開発
―「白金」の劣化要因解析が可能となり、性能・耐久性向上のための研究・開発に寄与―
トヨタ自動車(株)(以下、トヨタ)は、一般財団法人 ファインセラミックスセンター(以下、JFCC*)と共同で、燃料電池(FC)の化学反応を促進する触媒として不可欠な「白金」の反応性低下(いわゆる劣化)に至る挙動をリアルタイムで観察できる新たな手法を開発した。
これは、トヨタとJFCCの共同研究グループが、観察・分析用の「透過型電子顕微鏡」の中でFCスタックと同じ発電状態を模擬できる新しい観察用サンプルの作成に成功し、数ナノメートル(nm : 10億分の1メートル)程度の「白金微粒子」のレベルで、反応性低下に至る挙動プロセスの観察を可能としたものである。
「白金」の反応性低下は、「白金微粒子」の粗大化に起因することは知られているが、これまでの観察手法では、粗大化に至るプロセスをリアルタイムで把握することができず、粗大化の要因を解析することは困難であった。
今後は、今回開発した観察手法により、粗大化の要因として、「白金微粒子」の担体(土台)となるカーボン上で粗大化に至る挙動を引き起こす箇所やその時の電圧、さらには、担体の材料の種類によるそれらの違いなどが明らかになり、反応性低下のメカニズムを解析し、FCに不可欠な触媒である「白金」の性能・耐久性向上のための研究・開発指針が得られると考えている。
今回の観察手法の研究に取り組んだ経緯と、新たに開発した観察手法の特徴は、以下のとおり。
今回の研究に取り組んだ経緯
FCは、気体の水素を燃料として空気中の酸素との化学反応により発電する発電機である。発電は、セル内の水素極と空気極の二つの電極における化学反応によって生じ、この際に水が発生する。
水素極では、水素分子を電子と水素イオンに分離するが、この化学反応の際に電子を取り出す働きをするのが「白金」であり、これが触媒としての役割である。こうして電子を取り出すことが発電であり、モーターを動かす。水素極で取り出された水素イオンと発電してモーターを動かした電子は、空気極に移動し、空気中の酸素と化学反応して水が生成される。ここでも「白金」が触媒として、水素イオンと酸素の化学反応を促進する働きをする。なお、電極における「白金」は、数nmの微粒子である。
このように「白金」は、FCの発電のために不可欠であり、セル内の二つの電極において、FCの発電効率を高める上で重要な役割を担っている。
しかし、「白金」は、希少資源であるため高価であるとともに、発電に伴い「白金微粒子」が粗大化し、性能が低下することが知られている。触媒としての性能を維持するためには、「白金微粒子」が粗大化するメカニズムを解明する必要があるが、これまでの観察手法では、数nmレベルの「白金微粒子」がセル内で実際に作動している状態で確認できない、という技術的な課題があった。
新たに開発した観察手法の特徴
これまでの観察手法は、初期状態(使用前)と反応性低下後(使用後)の「白金微粒子」を抽出し、それぞれを比較する定点観察である。これにより、反応性が低下した時の「白金微粒子」は、初期状態にくらべ粗大化していることが分かっているが、粗大化に至る挙動プロセスを観察することができないため、要因を解析するには、反応性低下のメカニズムを推測する必要がある。
これに対し、このほど共同研究グループが開発した観察手法の特徴は、原子レベル(0.1nm)の物質の観察や分析ができる「透過型電子顕微鏡」を用いて、FCスタックのセル内で実際に化学反応が生じる環境・条件と同一の状態を模擬できる、新しい観察用サンプルを作ることに成功し、発電の経過とともに「白金微粒子」が粗大化するプロセスをリアルタイムで観察できるようになったことである。
新しい観察用サンプルは、「透過型電子顕微鏡」の内部に組み込むためにFCセルを模擬した極小のものであり、これが「透過型電子顕微鏡」の中に組み込まれた状態で「白金微粒子」に電圧をかけることができる装置を開発した。これにより、FCが作動(発電)している時と同じ、化学反応を起こした状態で「白金微粒子」が粗大化していく環境を「透過型電子顕微鏡」の中で実現でき、粗大化のプロセスをリアルタイムで観察することが可能となった。
以下の写真は、「白金微粒子」が、粗大化していくリアルタイムの観察結果である。
白い点線内は、担体(土台)となるカーボン上で「白金微粒子」が移動して複数が合体し、より大きな「白金微粒子」になった状態(粗大化)を捉えている。
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以上