2016年10月28日
小西 良樹(現・カローラ開発責任者)
カローラとの出会いは我が家の愛車
カローラのチーフエンジニアに任命されたのは2016年1月です。まだ日は浅いんですが、カローラについてはずいぶん古い思い出があります。私が小学3年生のとき、我が家の愛車としてやってきたのが白いカローラだったんです。3代目のカローラでした。私の席はいつも助手席の後ろ。その席から見る父親の運転する姿と、横基調デザインのインパネが、今でも記憶に残っています。カローラは子供の頃の思い出がいっぱい詰まったクルマ。歴代カローラの中で一番好きなのも、やっぱりその3代目です。
初代から受け継ぐカローラのチャレンジ
私がチーフエンジニアという肩書きをつとめるのは、今回が初めてです。任命されたときは大きなプレッシャーを感じました。まずはカローラの歴史を学ぶべきだと思って、色々な人から話を聞いたり、書籍を買い込んだりして勉強を始めたんですが、まさに驚きの連続です。
たとえば初代のカローラ。ボンネットのセンター部分が膨らんだデザインになっているんですが、あれは空気の流れを意識したものなんです。1960年代から、徹底的に考え抜かれた設計が行われていたんです。コラムシフトがほとんどの時代に、早くも4速フロアシフトが採用されています。しかもその翌年には、2速のAT(オートマチック・トランスミッション)も登場しているんです。赤い内装なども、非常に攻めていますよね。旺盛なチャレンジ精神を感じますし、開発スピードの速さにも驚かされます。ひょっとしたら現在とくらべて2分の1、いや3分の1くらいの期間でクルマをつくっていたんじゃないでしょうか。
チーフエンジニアとして、世界各地を訪れる機会がありますが、そこでは歴代チーフエンジニアの方々が築いてくださったカローラの財産の大きさを感じます。一番の財産は、なんといっても信頼性です。使い勝手も良くて、そして壊れない。どの国の方々もそう言ってくれます。自分はこの財産を絶対に壊してはならない。そこにいかに良いものをアドオンできるか。それが自分に託された役割だと感じています。
12代目カローラの「+α」
よくカローラは「80点+α」が信条と言われますが、現在開発を進めている12代目カローラでは、プラスアルファの魅力として、「乗って楽しい、見てカッコいい」を加えたいと思っています。デザインは低く構え、ワイドなスタンス、そしてスポーティらしさが感じられるもの。初代カローラでもスポーティさがプラスアルファの魅力として謳われていましたから、12代目はある意味、原点に回帰していると言えるかもしれませんね。
開発中の車両のチェックでは、自分が子どもだった頃の指定席である助手席の後ろにも必ず座ります。クルマの乗心地や静粛性を確認するために。すごく感慨深いです。カローラの開発に携わっているうれしさを感じると同時に、しっかりと良いものを造らなければという責任感がさらに強くなってきます。自分が子どもの頃にカローラで思い出を作ったように、世界中のお客様の思い出作りを少しでもお手伝いできれば。そんな気持ちで開発に取り組んでいます。
100周年に向けて:進化してこそカローラ
50周年を迎えるということも、本当に凄いと思います。ここまで長く続くクルマはなかなか無いですよね。しっかりと時代を見つめて、その時代に合うカローラ造りをしていけば、100周年もきっと実現すると思います。必要なのは、クルマや我々人類の課題である環境やエネルギー、安全の問題などにしっかりと向き合い、丁寧に答えを出していくこと。また、その上にクルマの楽しさや新しい驚き・感動を加えていきたいと思います。変化を恐れず、新しい技術や魅力もどんどん取り入れる。もしも変化が止まったら、カローラは終わってしまう気がします。カローラにとって守るべきことは、お客様の笑顔のために進化しつづけることだと思っています。
チーフエンジニアとして、自問自答を繰り返す毎日ですが、12代目となる次のカローラは、開発チームが一丸となって、必ずやいいクルマにします。ぜひご期待ください。
小西 良樹(現・カローラ開発責任者)
1991年にトヨタ自動車入社。ボデー設計部でセリカ、コロナ、初代bBなどFF車のアッパーボデー、アンダーボデーの設計の担当を経て、技術管理部に移り自動車開発プロセス改革を担当。2005年に製品企画に異動し、カローラやRAV4の製品企画を担当。その後、TNGAプラットフォームの開発責任者として4代目新型プリウスから採用が始まったGA-C P/Fを担当。2015年から製品企画に戻り、2016年から「カローラ全シリーズ」の開発責任者に就任。