2016年10月27日

安井 慎一(10・11代目カローラ開発責任者)

 

安井 慎一(10・11代目カローラ開発責任者) 安井 慎一(10・11代目カローラ開発責任者)
2016年10月27日

安井 慎一
(10・11代目カローラ開発責任者)

突然の任命

 私がトヨタに入社したときは、すでにカローラはトヨタを代表するモデルだったわけですが、正直に言うと、入社してから数年間、別の部署からカローラ開発チームを見ていたときは、「大変そうだな」という思いでした。

 私自身は、最初は開発企画部で、エアバッグなどの安全装備の開発をやっていました。その次にボディ設計部でシートやシートベルトの設計を担当し、その後、製品開発部に移り、初代ヴィッツやbB、ファンカーゴ、イストなどのコンパクトカーです。

 そして、次の異動先が、なんとカローラの製品企画でした。それまで、ファンカーゴやbBやイストなど、若者向けのパーソナル性の強いモデルを手掛けてきたので、正直に言って、「なぜ自分が?」という思いでした。伝統あるカローラを担当することになったわけですから。ただ、逆にそういう個性的なクルマをつくってきたからこそ、カローラを任されるようになったのかもしれない、とも思いました。

安井 慎一

「グローバルモデル」の本当の意味

 ちょうど10代目モデルのコンセプト検討を始めた時期だったのですが、当時のCE(チーフエンジニア)だった吉田健さんに、「カローラのことを全然知らないだろうから、海外に行って、よく見てきなさい」と出張を命じられました。日本仕様のカローラしか知らなかったため、購買年齢層の高いクルマというイメージで見ていましたが、海外に行って本当に驚きました。ある国では子供のいるファミリー層に人気があり、また別の国では若いユーザーが多いというように。まさに千差万別です。

 それを目の当たりにした瞬間に「グローバルモデル」の本当の意味がわかった気がしました。カローラの開発チームに入った際に吉田さんから言われたことを思い出しました。それは、長谷川さん(長谷川龍雄・初代カローラ主査[開発責任者])が色紙に記した「地球人の幸福と福祉のためのカローラを」という言葉です。これは、カローラの存在理由を表現したものだったんです。世界中のどこかでカローラが走っているとき、そこに人がいて生活があり、経済が動いている。だからカローラはグローバルな展開が求められているのだ、と思いました。

安井 慎一

経済危機でもこだわった11代目の進化

 そんな経験の後、11代目の開発を担当することになりました。10代目のマーケティングでお客さまの声を聞くと「いいクルマなんだけど、ちょっとワクワクドキドキが足りないよね」というのがありました。どこか、何か、もうひとつ魅力が欲しいということだったんですね。そこで11代目では、「海外展開用モデルでは、ホイールベースを100mm延長しよう」と考えました。ところが、折り悪しくリーマン・ショックのタイミングということで経済状態が思わしくなかったこともあり、社内では出来るだけ投資を抑える大方針が掲げられており、なかなか社内を説得するのが大変でした。何しろ、ホイールベースを延長するとなると、全世界16拠点の工場のラインそのものを大幅に変更しなければならなかったからです。

 しかし、ホイールベース延長によってボディスタイリングがさらに良くなる可能性がありますし、何より居住空間を拡大することができます。そういうニーズがある以上、やはり自動車メーカーとしては、その期待に応えるクルマづくりをするべきだと思いました。そこで、リーマン・ショックがあろうがなかろうが、「今やらないとダメだ!」と説得して回りました。

 カローラは大衆車ということもあって、オーソドックスに作られていると思われるかもしれませんが、新しいメカニズムや電子デバイスなどを量をまとめ安く大衆化して、上級モデルよりも先に搭載することもあります。

11代目カローラ

11代目カローラ

チャレンジこそカローラの本質

 こうしたチャレンジングな部分というのは、初代カローラの時代からあったと思います。初代カローラのレッドのインテリアなどは、大衆車らしくない刺激的なものだったでしょう。ただ、当時の色合いを忠実に再現してみると、決して派手な赤ではなく、独特の風合いを持った上品な赤ということがわかりました。そこで2016年に発売した50周年特別仕様車には赤いレザーシートを採用してみました。

 トヨタに入社してから、その会社人生の半分をカローラとともに過ごしてきました。むしろトヨタではなくカローラ株式会社に入ったというような感じです。これからもカローラに携わる以上、常にグローバルなニーズに対応できるクルマづくりを目指したいと思います。

安井 慎一

安井 慎一(10・11代目カローラ開発責任者)

1988年トヨタ自動車入社。エアバッグ、シート・シートベルトの設計を担当した後、1997年に製品企画に移り、初代ヴィッツやbB、ファンカーゴ、イストなどのコンパクトカーを担当。2002年10代目カローラコンセプトプランナーとしてカローラ製品企画に異動。2006年に10代目、11代目カローラ(海外向け)開発責任者に就任。2013年には日本国内も含めたすべてのカローラの開発責任者となり、2015年4月からはエグゼクティブチーフエンジニア兼常務理事、2016年からはミッドサイズビークルカンパニー製品企画 常務理事。

安井 慎一