2003年04月17日

トヨタ、新世代ハイブリッドシステム「THSII」を開発

―制御系の進化とモーター高出力化により、さらなる燃費向上と走りの魅力を飛躍―

 

 トヨタ自動車(株)(以下トヨタ)は、世界最高の環境性能を追求すると同時にクルマの本質的魅力である「走る楽しさ」を飛躍させるという「ハイブリッド・シナジー・ドライブ」をコンセプトに、モーターパワーとエンジンパワーのシナジー(相乗)効果を革新させた、新世代ハイブリッドシステム「THSII」を開発した。

 トヨタはこれまで、1997年に世界で初めて量産ハイブリッドシステム「THS*1」を搭載したプリウスを発売したのを皮切りに、2001年にはCVTを組み合わせた「THS-C」搭載エスティマハイブリッド、マイルドハイブリッドシステム「THS-M」搭載クラウンを発売し、現在、ハイブリッド車の全世界販売累計台数は13万台を超えている。また、2002年には燃料電池 ハイブリッド車「トヨタFCHV*2」を発売し、世界のハイブリッド車をリードするメーカーとして21世紀のクルマの革新を図ってきた。

 今回開発した「THSII」は、これらのハイブリッド技術を結集し、電源系の高電圧化をはじめとする制御系の進化と、モーター高出力化などにより効率をさらに高め、性能を一段と進化させた新世代ハイブリッドシステムである。  
 すなわち、エンジンを主動力に低出力モーターが一時的に駆動力を補助する他の方式とは異なり、モーターを重視するTHSの特長をさらに進化させ、出力密度を世界最高水準まで高めた高出力モーターを、より効率的にエンジンと協調し運転させることで、世界最高レベルの燃費を追求すると同時に、走りの魅力を飛躍させた点が最大の特長である。
1. 世界最高の環境性能を追求 
THSIIは、モーターと発電機の効率を高めるとともに、エネルギー伝達系の大幅な損失低減を図ったほか、車全体のエネルギー最適制御を進化。 
その作動はエンジン効率の低い条件では徹底してエンジンを停止しモーターのみで走行し、エンジン効率の高い条件では発電しながら走行、また、減速・制動時はエネルギー回生量を高めるなど、走行エネルギーの入出力制御をより高効率なものとし、世界最高レベルの燃費を追求 
エミッションは、各国で実施あるいは予定されている最も厳しい排気規制に対応(社内測定値)
2. 走りの革新 
1.5倍に出力を高め、高性能化したモーターと1.5リットルエンジンの相乗効果によって、2.0リットルエンジン車以上の加速性能を実現し、応答性に優れ、変速ショックのないなめらかで、力強いハイブリッド車の走りを一段と向上
3. 新システムを支える技術 
電源は、新開発の昇圧回路を組み込みバッテリー電圧を500Vに昇圧して、モーター、発電機を高電圧で駆動することにより、モーターの高出力化と電力損失の抑制を実現したほか、モーターの永久磁石の効果的な配置、バッテリーの高性能化、エンジンの改良などにより、システムを一新
 なお、トヨタは、本システム搭載米国向け次期プリウスをニューヨーク国際オートショーに出展したほか、本システムのさらなる高性能化を図り、大排気量・重量車にも展開する予定である。
*1 THS  TOYOTA Hybrid System
*2 FCHV  Fuel Cell Hybrid Vehicl
【 新ハイブリッドシステム「THSII」概要 】 
1. 世界最高レベルの燃費を追求 
基本システムは、プリウスに搭載の「THS」をベースに、モーター、発電機の電源系を高電圧化して、エネルギー伝達系の損失を大幅に低減し、車全体としてのエネルギー効率最適化制御を進化させることにより、画期的な高効率化を図っている。
このシステムは、エンジンを主動力に低出力モーターが一時的に駆動力を補助する方式とは異なり、 モーターを重視するTHSを、さらに進化させたもので、重量、容積あたりの出力を世界最高水準まで高めた高効率高出力のモーターを、高効率エンジンと協調させて運転させることで、 さらなる高効率化を実現している。 
具体的には、エンジン効率の悪い低速走行条件などでは徹底してエンジンを停止させ、モーターのみで走行し、通常走行時は高効率エンジンを動力源に、動力分割機構によりエンジンの動力を発電機駆動用と車両駆動用に分配し、効率の良いエンジン運転領域を選択して運転すると同時に、発電力と駆動力の配分をエネルギー効率が最良となるよう連続的に制御している。 
さらに新ブレーキシステムと組み合わせた新回生協調ブレーキシステムの採用、高性能化したバッテリー、エネルギー伝達系の大幅な損失低減とあいまって回生エネルギー量を増加させ、これらにより世界最高レベルの燃費を追求している。
<システム構成(概念図)>

システム構成(概念図)

2. 走りの革新 
新システムでは、モーター出力を1.5倍に高めたうえ、発電機の最高回転数を飛躍的に高めることにより、エンジンと合わせたシステム出力を広い車速域で大幅に向上。
加速性能は、2.0リットルエンジン搭載車以上の結果を得たほか、より優れた加速応答性、変速ショックのないなめらかで力強い加速を実現。
3. 新システムを支える技術
(1) 電源系の高電圧化
電源系に、モーター、発電機とハイブリッド用バッテリーの間の電圧を500Vに変換する新開発の昇圧回路を設けたことで、モーター、発電機を高電圧で駆動することを可能とし、より小電流での電力供給による電気損失の抑制とともにモーターの高出力化を実現。
(2) 交流同期型モーター
独自開発のモーターは、構成部品であるローターの永久磁石の最適配置を図り、ローターを効果的な形状にするとともに、電源系を高電圧化することにより、モーターは同サイズながら従来に比べ出力を約1.5倍に向上。さらに、モーター制御の工夫により最大トルク発生領域を拡大。 
(3) ハイブリッド用ニッケル水素バッテリー 
ハイブリッド用バッテリーの内部抵抗を低減し、容量当りの出力である出力密度を世界トップレベルとして、充放電性能を高めた新たなバッテリーを開発。 
これにより、加速性能向上と燃費向上に寄与。
(4) エンジン
量産ガソリンエンジンで世界最高レベルの熱効率を実現した1.5リットルアトキンソンサイクルエンジンを、さらに改良し効率アップを図ったほか、最高回転数を高め出力を向上。
4. システムの作動状態
作動状態  
発進時・低中速走行時
発進時や中速までの定常走行など、より広い運転条件においてエンジン効率の悪い領域はエンジンを停止し、モーターのみで走行。
発進時・低中速走行時
通常走行時
エンジン動力は動力分割機構で2経路に分割。一方は発電機を駆動して発電する経路で、この電力でモーターを駆動。もう一方は、車輪を直接駆動。これらの経路の割合を効率最大となるように制御。
通常走行時
急加速時
急加速時は、バッテリーからも電力が供給され、エンジンの駆動力に高出力モーター駆動力を加え、応答性が良くなめらかな動力性能を発揮し、加速性能を一段と向上。
急加速時
減速時・制動時
減速時・制動時は、車輪がモーターを駆動し、高出力モーターを高出力発電機として作動させ、車両の運動エネルギーをより多くの電力として回収する高効率回生ブレーキとして作用。
回収した電力は高性能化したバッテリーに充電。
減速時・制動時
バッテリー充電時
バッテリーは一定の充電状態を維持するよう制御し、充電量が少なくなると発電機を駆動して充電を開始。
バッテリー充電時
車両停止時は、エンジンを自動的に停止。
 

項 目  THSII THS
 エンジン   種 類  1.5リットルガソリン
(高膨張比サイクル)
 最高出力(kW〔PS〕/rpm)  57〔78〕/5,000 53〔72〕/4,500 
 最大トルク(N・m〔kg・m〕/rpm)  115〔11.7〕/4,200 115〔11.7〕/4,200 
 モーター   種 類  交流同期電動機
 最高出力(kW〔PS〕/rpm)  50〔68〕/1,200~1,540 33〔45〕/1,040~5,600
 最大トルク(N・m〔kg・m〕/rpm)  400〔40.8〕/0~1,200 350〔35.7〕/0~400
 システム*   最高出力(kW〔PS〕/車速km/h) 82〔113〕/85以上 74〔101〕/120以上
 85km/h出力(kW〔PS〕)  82〔113〕 65〔88〕 
 最大トルク(N・m〔kg・m〕/車速km/h) 478〔48.7〕/22以下  421〔42.9〕/11以下
 22km/hトルク(N・m〔kg・m〕)  478〔48.7〕 378〔38.5〕
 バッテリー  種 類 ニッケル水素
*エンジンとモーターにより、システムとして発揮できる出力ならびにトルク(トヨタ算定値)
<断面図>
断面図

以上

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