ガスタービン発電機とバッテリーによるハイブリッド推進システムの飛行実証を無人航空機で実施
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トヨタ自動車 未来創生センターは、2026年7月9日、静岡県伊豆市の天城ドームにおいて、小型ガスタービン発電機とバッテリーを組み合わせた「ハイブリッド推進システム」をマルチコプター型無人航空機(ドローン)に搭載し、飛行実証を実施しました(図1)。今回の実証では、飛行中に発電しながら電力を供給するハイブリッド推進システムを実際の飛行環境で動作させ、次世代の空のモビリティへの適用に向けた技術的な見通しを得ました。本稿では、その実証概要と成果について紹介します。

図1 ハイブリッド推進システムを搭載した無人航空機の飛行実証のようす(静岡県伊豆市・天城ドーム)
図1 ハイブリッド推進システムを搭載した無人航空機の飛行実証のようす(静岡県伊豆市・天城ドーム)

次世代の空のモビリティが直面する課題

世界各国では、eVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing : 電動垂直離着陸機)などのバッテリーを動力源とする電動航空機を中心に、次世代の空のモビリティの実用化に向けた研究開発や実証が進められています。

バッテリーは質量あたりの出力(出力密度)が大きく、要求の変動に対する応答も速いため、離着陸など短時間で大きな電力を必要とする場面に適しています。一方、質量あたりに蓄えられるエネルギー量(質量エネルギー密度)は現状では液体燃料に及ばず、飛行時間を延ばそうとバッテリーの搭載量を増やすほど機体質量が増加するため、航続距離やペイロード(最大積載量)に一定の制約が生じます。

我々は、この課題に対する有力な選択肢として、燃料を搭載し、飛行中に発電しながら電力を供給する「シリーズハイブリッド方式」の推進システムに着目しました。

ハイブリッド推進システムのしくみ

今回の飛行実証で用いたシステムは、灯油を燃料とするガスタービン発電機とバッテリーを統合的に制御し、モーターへ電力を供給して推進力を得るシリーズハイブリッド方式です。エンジンを発電専用として用い、発電した電力とバッテリーの電力を組み合わせてモーターを駆動します(図2)。

図2 ハイブリッド推進システムの概略図
図2 ハイブリッド推進システムの概略図

中核を担うガスタービンエンジンは、圧縮機で加圧した空気に燃料を噴射して連続的に燃焼させ、生じた高温の燃焼ガスでタービンを駆動して回転出力を得る内燃機関です。ピストンの往復運動をともなわず、空気を連続的に流しながら燃焼させるため、自動車などで広く用いられているレシプロエンジンに比べて出力密度を高めやすく、軽量化が求められる航空用途との親和性があります。

この回転出力で同軸に直結した発電機を駆動し、電力として取り出す装置がガスタービン発電機です(図3)。バッテリーは出力密度に、ガスタービン発電機は質量エネルギー密度に強みがあります(図4)。飛行中に常時必要な電力を発電機が供給し、離着陸など一時的に大きな電力が必要となる場面をバッテリーが補うことで、それぞれの特長を活かし、電動航空機の性能向上に貢献できる可能性があります。

図3 ガスタービン発電機
図3 ガスタービン発電機
図4 バッテリーとガスタービン発電機の出力密度・質量エネルギー密度の定性的な比較
図4 バッテリーとガスタービン発電機の出力密度・質量エネルギー密度の定性的な比較

飛行実証で確かめたこと

今回の飛行実証では、将来想定している数百kW級のシステムに対し、出力規模を大幅に抑えた小型のガスタービン発電機と150kg級の無人航空機を用いました。その目的は、ハイブリッド推進システムの成立性の確認と、大型機への実装に必要となる要素技術の検証を、実際の飛行環境で早期に行うことです。

具体的には、ガスタービン発電機の小型・軽量化に関わる技術と、機体が求める電力を安定して供給するための制御技術の二つを中心に検証しました。
小型・軽量化に関わる要素技術の一つが、エアベアリングです。ガスタービンは小さくて軽いことが強みである一方、小型になるほど、オイル系統といった補機が全体に占める割合が大きくなります。これを解決する技術として、我々は空気の膜で軸を支持する軸受の研究に挑んでいます。詳細は「空飛ぶクルマ用ゼロエミッションガスタービンの技術開発」をご覧ください。エアベアリングは、非常に高速で回転するガスタービンエンジンの軸を10μmオーダーのわずかな空気の膜だけで支えるため、安定して軸を支持することは容易ではありません。設計と評価を何度も繰り返し、今回の実証機では軸受の一部をエアベアリングに置き換えた構成としました。

もう一つの検証項目は、ガスタービン発電機とバッテリーの協調制御です。飛行中は、離着陸やホバリングなど飛行状況に応じて、必要な電力が常に大きく変動します。応答特性の異なる二つの電源から、その瞬間の要求に見合った電力を過不足なく供給することが最も難しく、制御の作り込みには試行錯誤を重ねました。

飛行実証では、地上でのエンジン始動から、離陸、ホバリング、着陸、エンジン停止に至る一連の飛行を通じて、ハイブリッド推進システムが設計どおりに電力を供給し続けることを確認しました。また、ガスタービン発電機に起因する振動、温度、騒音を計測し、いずれも機体の運用に支障のない水準にあることを確かめています。こうした評価を安全に積み重ねるための試験プロセスと評価手法を確立できたことも、今回の重要な成果です(動画1)。

動画1 飛行実証のようす

自動車から空へ、受け継がれる技術

今回のハイブリッド推進システムを支えているのが、トヨタが1970年代から自動車向け小型ガスタービンエンジンの開発を続ける中で培ってきた技術です*1。自動車への搭載を想定し、限られたスペースと質量の中で出力、制御性、信頼性を高める開発に取り組むことで、小型・軽量化と高出力化を両立する知見を蓄積してきました。航空用途ではこれらの制約がさらに厳しく、推進システムの小型・軽量化が航続距離やペイロードの向上に直結することから、この両立技術が電動航空機への展開において重要となります。さらに、自動車開発で積み重ねてきたエネルギーマネジメント、システム制御、信頼性・安全性の知見も、領域を越えて今回のシステムに受け継がれています。

ガスタービンがもたらす燃料の多様性

また、トヨタが自動車開発で培ってきた「燃料の多様性」の考え方も空のモビリティにおける強みとなります。ガスタービンエンジンは燃料の選択肢が広く、灯油に加えて、合成燃料、バイオ燃料、アンモニア、そして水素などへの展開が期待されます。これにより、地域、用途、エネルギーインフラの状況に応じた柔軟なモビリティシステムを構築できると考えています。

我々は、灯油を燃料とする現在のシステムから、水素を燃料とするガスタービン発電機への発展も見据えています*2。水素は、燃焼時にCO2を排出しないため、カーボンニュートラル社会の実現に向けた重要な選択肢の一つです。一方、水素燃焼では火炎温度が高くなりやすく、燃焼用空気中の窒素が酸化してNOx(窒素酸化物)が生成されるという課題があります。この課題に対し、NOxを大幅に低減する燃焼技術の研究開発にも取り組んでいます。

これからの研究の展望

次世代の空のモビリティに向けたハイブリッド推進システムは、いま世界各国で研究開発が本格化しつつある領域です。機体の飛行特性や運用形態に応じて、ガスタービン発電機とバッテリーをどのように組み合わせて電力を供給するのかという問いに対する最適な答えはまだ明確ではありません。我々は、試作と実証を一つひとつ積み重ねながら、その答えを模索していきます。
今回の飛行実証で得られた成果を活かし、より大きな出力規模での成立性の検証を進めるとともに、性能、信頼性、安全性のさらなる向上に取り組みます。あわせて、水素燃焼技術の研究開発を進め、環境負荷の少ないモビリティの実現を目指します。

我々は、研究開発を着実に進め、人や物がより自由に移動できる社会の実現に貢献してまいります。

図5 プロジェクトメンバー(筆者は最前列、中央の機体の右隣)
図5 プロジェクトメンバー(筆者は最前列、中央の機体の右隣)

著者

重田 峻輔(しげた しゅんすけ)
未来創生センター R-フロンティア部 ガスタービンG

本件に関するお問い合わせ先

未来創生センター
frc_pr@mail.toyota.co.jp

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