2025年02月04日
幸せの量産をミッションに掲げる私たち従業員のWell-beingを見つめる~第4回Emotional Well-Being研究会 実施レポート~
誰もが、今よりもっと笑顔で幸せに暮らせる。そんな未来に少しでも貢献するために、トヨタ自動車株式会社は「幸せの量産」をミッションに掲げ、モビリティ・カンパニーとしてもっといいモビリティ社会の実現に挑戦しています。この挑戦のひとつとして、2021年よりトヨタ自動車 未来創生センターおよび先進技術統括部、株式会社豊田中央研究所、Toyota Research Instituteの研究者が「Emotional Well-Being研究会」を立ち上げ、「幸せとは?」、「Well-Beingとは?」という簡単には答えの見つからない問いをさまざまな角度から議論しています。
これまでに実施した3回の研究会*1-3は、いずれもセミナー形式でした。生物学、臨床心理学、イベント企画、ゲーム学、社会心理学、工学と多種多様な有識者を招き、それぞれの専門分野から見たWell-Beingを語っていただき、議論してきました。
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- トヨタの製造現場
今回の研究会では、これまでの活動で得た知識をもとに、「トヨタで働く人のWell-Being」について私たち自身が考える場としました。トヨタには、世界中で約38万人*4の従業員がいますが、その中でも特に製造現場で働く人に着目しました。製造現場では、働く中でより高い技能と幅広い知識を身につけ、家族のようにお互いに教え合うことを大事にしてきました。一方、こうした製造現場に携わりたいと思う人が減っている、また従業員の中には短期間で退職される人もいる、という問題に直面しています。この問題の理解と解決に向けて、日本、米国、欧州から30人以上の参加者が、米国西海岸のToyota Research Instituteに集まり、2.5日間にわたり議論しました。参加者には、製造現場で働くマネージャーや人事関係者だけでなく、技術者や研究者、さらにトヨタ自動車のチーフ・サステナビリティ・オフィサーである大塚さんやチーフ・サイエンティストのギル・プラットさんも参加し、さまざまな視点からの意見が交わされました。
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- 車の仕組みに興味津々な幼少時のギル・プラットさん
ギル・プラットさんの問いかけ : 仕事を愛するための方法とは?
「みんなが自分の仕事を愛するためにはどうすればいいのか?」。今回の研究会は、ギル・プラットさんのこの問いから始まりました。ギル・プラットさんは、伊那食品工業株式会社が取り組んでいる「年輪経営」や、Bain & Company, Inc.のフレッド・ライクヘルド氏が提唱する「顧客愛」が、従業員の生きがいにつながった事例を紹介しました。そして、「どうしたら多くの従業員が仕事を愛し、それを生きがいにできるか、の答えはわかっていない。だからこそ、この研究会でみんなで話し合って答えを見つけたい」と参加者を励ましました。
私たちの議論の出発点は、この記事のバナーにもある「8つのキーワード」です。これらのキーワードは、「幸せ」についての多様な視点を示していて、Emotional Well-Being研究会の活動を通じて、さまざまな人と話し合う中で作り上げてきました。今回は、さまざまな価値観を持つ多様な人が集まる製造現場の問題を整理するために、「認める」というキーワードに注目しました。
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- Emotional Well-being検討会が提案する8つのキーワード
「認める」というキーワードを切り口に、製造現場の問題の原因について議論をする中で、「面倒見*5が難しくなってきている」という実態が明らかになりました。上司と部下、先輩と後輩の関係に限らず、従業員同士がお互いの価値観や生き方を認め合うことが難しくなってきているのではないだろうか、それはなぜだろうか、という問いは、世界中のトヨタの製造現場で共通していることがわかりました。ここで言う「面倒見」とは、世界中のトヨタでMendomiと言われている用語で、従業員が相互に家族のように大切にすることを意味しています。しかし、現代の価値観において、旧来と同様の関係性をお互いに期待しているのだろうか、「面倒見」について改めて考える必要性があると感じました。
参加者全員で原因を深く分析したところ、同じ米国内でも、地域、工場、職場によって要因が異なること、さらに従業員一人ひとりの価値観や環境によって、解決すべき要因とその優先順位が異なることがわかってきました。世界中のトヨタの製造現場で共通した問いであるにも関わらず、世界共通の対策は困難であり、職場それぞれの事情に合わせること、さらに一人ひとりの従業員に寄り添った対応が必要であることが見えてきました。
私とあなたの状況は違う。それでも一緒にWell-Beingに生きるために
一人ひとりの従業員に寄り添い、みんながWell-Beingに生きることを考えるときに、〇〇はWell-Beingを高めるから良い、△△はWell-Beingを低下させるから悪い、というように、善悪で考えがちです。しかしその善悪はいつでも、誰に対してもあてはまるものでしょうか?
この問いに対して、第3回EWB研究会でも講演いただいた名古屋大学(当時)の上出寛子先生に、「二元性一原論」と題して人がモノの価値を考えるうえで重要な哲学的視点を語っていただきました。最も大事な概念は、「三性(さんしょう)の理」というものです。善悪という対立概念から一段階層を上がって「無記(むき)」という上位概念を考えることです。
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- 「無記」とは
上出先生は、三性の理をカッターナイフとクルマを例に説明されました。カッターナイフを作ろうと思ったときに、刃だけあればよいでしょうか?もちろん、持ち手が無いとカッターナイフとして機能させることができません。「切れる」、「切れない」、といった対立概念で止まっていてはカッターナイフを作ることが出来ません。また、ホンダの創業者である本田宗一郎氏の言葉を引用して、「クルマが走るためには、アクセルが必要かブレーキが必要か」、と研究会の参加者に問いました。直感的に「アクセル!」と答えてしまいそうですが、ブレーキが無い限り、安全に「走る」ということを機能させることはできません。つまり、「加速する」と「減速する」という対立概念を融合させることによってこそ、「走る」という機能を生み出すことができるのです。
Well-Beingを高める取り組みが、同じ工場、同じ職場のすべての人に対して同様に良いものとは限りません。一方でWell-Beingを低下させる事柄も、無記に立ち返れば、自在に善に転じる(善転する)ことができる、と上出先生から教わりました。とかく、Well-Beingということを議題にすると、〇〇が良い、△△が悪い、とラベル付けに終始してしまいがちですが、ここで一歩立ち止まって、その良し悪しの源となっている上位概念は何か、を考えねばならないことを研究会の参加者は気づくことができました。
この気づきにもとづいて、「面倒見が難しくなってきている」という製造現場の課題をより深く考え、議論しました。「若い世代はスマホばかり見ている」「あのベテランは、昔は良かったばかり言う」と悪いことのように捉えずに、本来持っている価値(無記)を捉えることで、「若い世代/ベテランは有用な情報をより多く持っている」と善転できる可能性があります。無記に気づき、善転を自在に行うためにも、先輩と後輩の間、あるいは上司と部下の間でのコミュニケーションが必要であり、それを促進するための面倒見の在り方があるのではないかという考えのもと、各工場の事情に合わせた具体的な進め方のアイデアが多く出されました。今後は、今回出たアイデアを洗練させながら、複数の工場で働く人のWell-Beingに寄与するトライアルを進めていく予定です。
未来への展望 : 多元的議論から生まれる新たな技
当研究会の最後に、チーフ・サステナビリティ・オフィサーの大塚さんは、こうした議論から生まれるものが、世界中のトヨタの従業員それぞれが身につける、幸せのための新たな「技」に昇華されていくことに期待を寄せ、「この研究会に参加している多様なメンバーが、それぞれの知恵を共有することは非常に重要です。『幸せの量産』というミッションの実現に向けて、私たちの仲間と私たち自身のWell-Beingのために、一緒に努力していきましょう」と述べて閉会となりました。
少しずつですが、Well-Beingについてより多元的に議論ができる土壌が出来てきました。第4回EWB研究会の参加者が各職場でこうした議論を継続することにより、深堀された暗黙知が形式知として蓄積され、その知見が活用されていくことで、従業員にとってもより良い会社となれると実感できました。未来につながる研究を推進する者としては、職場での議論で得られる知見を科学的に体系化し、職場のWell-Beingについて理解するための枠組みを作っていきたいと考えています。多様な人が働く時代に向けて、働く人の視点から、働く人にアプローチすることで、持続的な製造業への刷新を目指していきたいと思います。引き続き、Emotional Well-Being研究会の活動にご期待ください。
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- 第4回Emotional Well-being研究会の参加者
参考資料
*1 | 多様性と多元性から見る Well-Being~第1回Emotional Well-Being研究会 実施レポート~ |
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*2 | アソビと余白から見るWell-Being~第2回Emotional Well-Being研究会 実施レポート~ |
*3 | 責任ある研究・技術開発から見るWell-Being~第3回Emotional Well-Being研究会 実施レポート~ |
*4 | 連結従業員数(2024年3月末時点) |
*5 | トヨタ自動車 河合エグゼクティブ・フェローは「トヨタには『面倒見』という言葉がある。これは面倒を見る方が言うことじゃない。あの人には世話になった。あの人のおかげで今がある。そう感じた人から出る言葉だ」と解説しています。 |
本件に関するお問い合わせ先
- 未来創生センター
- メールアドレスfrc_pr@mail.toyota.co.jp