エモーショナルウェルビーイング研究会
すべての人に健康と福祉を

誰もが、今よりもっと笑顔で幸せに暮らせる。そんな未来に少しでも貢献するために、トヨタ自動車は「幸せの量産」をミッションに掲げ、モビリティ・カンパニーとしてクルマづくりにくわえて、もっといいモビリティ社会、まちづくりに挑戦しています。この挑戦を一歩でも進めるために、2021年よりトヨタ自動車 未来創生センター・株式会社豊田中央研究所(以下、豊田中央研究所)・Toyota Research Institute(TRI)の研究者が集まって「幸せとは?」、「Well-Beingとは?」という簡単には答えの見つからない課題に対して議論するために「Emotional Well-Being研究会」を立ち上げました。

Well-Beingという言葉は、WHOによって「身体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」と定義されています。しかし、Well-Beingは様々な要素から構成されているので、一人ひとりが考えているWell-Beingが違うものを指しているのかもしれません。そこで本研究会では、まずは、各界の有識者との対話を通じてWell-Beingを様々な角度から議論し、その内容を、私たちトヨタグループだけではなく、もっと多くの皆様と共有することで、私達が未来社会で暮らす人々のWell-Beingのために何ができるのかを考えるきっかけづくりにつなげたいと考えております。

第1回研究会開催

2022年3月、「多様性と多元性から見るWell-Being」をテーマに第1回の研究会をトヨタグループ向けに実施しました。「ヒトや社会が多様であること、Well-Beingの捉え方が多元的であることが、人がWell-Beingであるために重要なのではないか」という観点を1つの軸にして、東京大学の理事・副学長であり、総合文化研究科で生物の遺伝・ゲノムの研究をされている太田邦史先生と東京大学大学院教育学研究科で臨床心理学の研究をされている高橋美保先生に、トヨタグループに向けてご講演頂きました。また、その後に、豊田中央研究所の古賀CEO(兼 トヨタ自動車 未来創生センター長)、TRIのプラットCEO(兼 トヨタ自動車 チーフサイエンティスト・エグゼクティブフェロー)が加わり、パネルディスカッションを行いました。今回は、その研究会の内容を紹介いたします。

カオスの縁こそWell-Beingのカギ?

太田先生は、人間にとってWell-Beingとはどのようなものか、生物が持続的に生存するために用いている多元性の原理を観点に、激動の時代を生き抜くヒントがあるといいます。

必ずしも理想的な生存状況にいるわけではない生物は、最適化を極めずに多様性とあそびを持つことでしぶとさを獲得し、自然にゆだねてムダを許容することで環境変化が起こったときも生き残れる頑健性を維持しています。一本足打法では長期的な持続可能性はなく、これは企業も同じであると太田先生は指摘します。生物は共生と棲み分けを使い分け、環境への働きかけやネットワークを作って進化しています。

将棋やスポーツなどの勝負の世界も生物に似て、リスクを取らずに安全地帯にとどまっていると徐々に自分の力を弱めていきます。生物は870万種と推定されていますが、同時に絶滅も進行しており、生物が生存しつづけるためには新しい種をつくる必要があります。「その場にとどまるために全力で走り続けなければならない」という赤の女王仮説を引用し、過去の大量絶滅のピンチにカンブリア爆発などが起こっている例を紹介しました。

新しいパターンの創発のためには秩序がありすぎても無さ過ぎてもない「カオスの縁」の状態が良く、会社でもこれが創れるかが持続可能性の鍵となります。変化に素早く適応するためには備えが必要で、カオスの縁や共存共栄を意識していくことが大切であるとお話を締めくくられました。

太田先生のご講演「生命の多様性から見たWell-Being」
太田先生のご講演「生命の多様性から見たWell-Being」

ライフキャリア・レジリエンスを磨く

ご自身も企業などでカウンセラーとして活動される高橋先生は、多様性について、文化的な違いや個人差もあり、個人の中でも違うため、コミュニティで起こる様々な相互作用でストレスが生まれると指摘します。組織におけるチームでは、多様性が高いとイノベーションにつながりますが対立も起こります。そのために振返りと対話が大切になります。

高橋先生は、不確実性の時代に、思うようにならないことがあっても自分らしく歩む力という意味の、ライフキャリア・レジリエンスという考え方を提案しています。「臨床をしていると、思い通りに生きることができないことが共通の悩みとして現れます。これしかないという形にこだわっている自分がいるから不幸なのだという気づく瞬間があります。そのとき、どんな選択も自分で主体的に決めていく感覚が大事になります。」マインドフルネスにおける二つの心のモードのうち、Doingはポジティブで生産性を高めるモードですが、これだけだと苦しくなることがあり、そういう状態に気づかない自動操縦のような状態です。もう一つのBeingは良いことも嫌なことも含め、いまの状態を感じるモードで、この別の軸を持つことがバランスをとることに役立ち、Doingも意図的にするのが大切であると指摘します。

個人と組織においては、調子を落とした人の個人の問題ではなく、個人に現れる組織の問題かもしれないと考えることが、職場にとっては予防的役割になります。個人を大事にするということは、周りの人を大事し、生産性も高まります。ケアしあうコミュニティを作り上げることは企業にとっても役に立つことであると、お話を締めくくられました。

高橋先生のご講演「多様性・多元性を包摂するコミュニティとはー臨床心理学の視点から」
高橋先生のご講演「多様性・多元性を包摂するコミュニティとはー臨床心理学の視点から」

集団の中でのWell-Being

パネルディスカッションでは、プラットCEOの「生物多様性のなかで集団の最適解が個としては最適解ではないこともあるのか?」という問いから議論がスタートしました。太田先生からは「どちらも多様性は重要でレジリエントにつながる。会社においては複数のビジネスプランを持っておくことが重要」、高橋先生からは「加齢などによって今までできたことができなくなったなど、ポジティブでないから不幸、ではなくネガティブなことがない状態に目を向けよう。あるものを大事に活かすのは組織」とのご意見をいただきました。

また、古賀CEOは「カオスの縁」について、均質とカオスの絶妙なバランスにいい状態があり、個人と組織が対立するのではなく、それぞれを大事にできる自分が遷移できる状態が望ましいのではないかと提起されました。それに対し太田先生は、ご自身も思ったように人生を送っていないが、状況の変化に挑戦することを心がけており、自分が少しずつ変化していくのではないかと述べられました。高橋先生は、自分や組織の状態に気づきにくい人は、気づけないことに気づき、それをまわりに理解してもらうことが大切であり、そういう人を活かすことが組織の仕事であると述べられました。

エモーショナルウェルビーイング研究会 パネルディスカッション
上段 : 高橋先生(左)、太田先生(中央)、プラットCEO(TRI、右)
下段 : 古賀CEO(左)、豊田中央研究所 村本(右、ファシリテーター)

次回に向けて

本研究会でご講演頂いた太田先生、高橋先生は、生物学と臨床心理学という、一見すると関係性が薄い分野の先生方でした。しかし、それぞれの分野からWell-Beingについて議論する中で、ダイバーシティ、インクルーシブに関連した共通の研究課題を先生方ご自身も見出し、相互に新鮮な視点を提供するという刺激的な議論になりました。

今回の議論を通じて、一人ひとりが考えているWell-Beingが違うものを指していること、および、多様であることの大切さを学びました。それらは、私たちの集団としてWell-Beingにつながるものと理解しました。同時に、一人ひとりが考えているWell-Beingが違うものを指しているために、思うようにならないと調子を落としてしまうケースがあり、コミュニティとしてケアすることの大切さにも気づかされました。今回の気づきを起点にし、多くの方とこうしたディスカッションを続けていきながら、現在そして未来の社会で暮らす人々のWell-Beingのためにトヨタは何ができるのかを、考えていきたいと思います。今後のEmotional Well-Being研究会の活動にご期待ください。

本件に関するお問い合わせ先

未来創生センター
メールアドレスxr-probot@mail.toyota.co.jp

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