2016年12月06日

新型パワートレーン

-3. 新型トランスミッション-

 

2016年12月6日

新型パワートレーン

-3. 新型トランスミッション-

トヨタ自動車株式会社 常務役員
パワートレーンカンパニー バイスプレジデント
岸 宏尚

3. 新型トランスミッション

続きまして、新型トランスミッションについてご説明します。
今回新たに、FF用のDirect Shift-8AT、FR用のDirect Shift-10ATを開発しました。

環境性能とダイレクト&スムースの両立に向けて、トランスミッションでは、基本性能である「伝達効率の向上」と、「エンジン高効率領域の活用」「リズミカルな高応答変速」をテーマに開発をしました。

新型トランスミッション開発の考え方

これらを実現するために、「機械損失低減」、更なる「ロックアップ領域拡大」と、「多段化」に取り組んできました。
はじめに、「伝達効率の向上」についてご説明します。

世界トップレベルの伝達効率

一般的には多段化を図ると、トランスミッションの構成部品数が増加するため、伝達効率は悪化しますが、Direct Shift-8AT、10ATでは、ギヤ・クラッチ等の高効率化技術を採用し、ワイドなギヤ比と世界トップレベルの伝達効率を、実現しました。

伝達効率向上の技術

その伝達効率向上についてご説明します。
今回の開発ではギヤやクラッチなど構成部品の設計を一から見直し、徹底した損失低減に取組みました。
特に採用技術のひとつである、超仕上げ歯面ギヤは、歯面を鏡のような滑らかにしつつ、噛み合い時に必要な潤滑オイルを保持する特殊な歯面になっています。
この設計技術と生産技術の融合により実現した技術でギヤが噛み合う時のエネルギー伝達ロスをさらに低減できました。

ロックアップ領域拡大に向けた取り組み

続いて、「ロックアップ領域の拡大に向けた取り組み」について、ご説明します。
ロックアップ領域の拡大に対しては、低回転域でのこもり音や振動の低減が課題となります。
そこで、パワートレーン・車体をモデル化し、こもり音・振動の要因とその低減に効果的な設計諸元を車両全体で数値解析することで、ロックアップ領域の拡大を図ってきました。

ロックアップ領域拡大を可能にした技術

ロックアップ領域の拡大を可能にした、トランスミッションの要素技術を2つご紹介します。
ひとつは、AT内部の部品の慣性配置の最適化です。振動を低減するためには、ATの回転慣性の増加が必要となりますが、質量の増加が課題となります。
今回は、図に示すように、部品の配置を変更することにより、アッセンブリーで同等質量のまま振動低減に必要な回転慣性を確保しました。
2つめは、新開発のトルクコンバータについてです。部品レベルで緻密に構造解析を実施した結果を部品諸元、レイアウト化した高減衰ダンパ、これに多板式ロックアップクラッチと小型超扁平トーラスを組み合わせた、新トルクコンバータを新開発しました。

ロックアップ領域拡大によるダイレクト感の向上

左の図は、走行中のロックアップ領域を従来ATと比較したものです。
ピンクで示すDirect Shift-8ATは、全変速段で、より低い速度からロックアップ状態での走行が可能となり、加減速走行時のエンジン回転数の吹け上がりや、ふらつきが低減、よりダイレクト感のある走りを実現できました。

多段化によるリズミカルで心地よい加速

次に、「多段化によるリズミカルで心地よい加速」について、ご説明します。
「心地よい加速」のためには、一定のリズムで変速する等間隔変速が必要となりますが、Direct Shift-10ATでは、クロスギヤステップギヤトレーンを新開発し、“リズミカルで心地よい加速”を実現しました。

世界最速 かつ スムースな変速

また、リズミカルで心地よい加速を実現するために、変速時間の短縮にも取り組みました。
変速時間短縮は、ショックとの両立が課題となります。
Direct Shift-10ATではハードの高応答化を図ると共に、新開発のパワートレーンモデルベース統合制御と組み合わせることで世界最速かつ「スムース」で、キレの良い変速を実現することができました。