2016年12月06日

新型パワートレーン

-2.新型エンジン-

 

2016年12月6日

新型パワートレーン

-2. 新型エンジン-

トヨタ自動車株式会社 常務役員
パワートレーンカンパニー バイスプレジデント
岸 宏尚

2. 新型エンジン

ここからは、エンジン、トランスミッション、ハイブリッド個々の新型について、ご紹介します。
まず、エンジンです。
TNGAに基づき開発した新型エンジンシリーズを『Dynamic Force Engine』と命名し、今後展開する異なる排気量の新型エンジンシリーズ全てを、環境性能と出力性能を大幅に向上した力強いエンジンにしていきます。

新型エンジン開発の考え方

まず、今回のエンジン開発の考え方をご説明します。熱効率向上のための4つの損失低減は、従来トヨタが培った経験をもとに基盤技術を地道に進化させました。
さらに、TNGAでは燃焼の質の向上、すなわち、更なる高速燃焼の追及と吸入効率を大幅に向上させることを両立させ、これをコモンアーキテクチャー化し、TNGAエンジンの基本設計として、全エンジン機種へ展開することを目標に開発しました。

コモンアーキテクチャーの考え方

そのコモンアーキテクチャーとモジュールの考え方を説明します。
先ほど説明しましたように、パワーと燃費を高次元で達成できる最適な燃焼状態を作り上げ、その物理量をコモンアーキテクチャーとして定義します。
そのコモンアーキテクチャーを異なる排気量のエンジンにも展開できるよう個々の設計諸元に置き換え、それをモジュール化します。
モジュール化した設計諸元を、TNGA開発の全エンジンに迅速に展開することで、開発・生産をスピードアップし、かつ、異なるエンジンでも同様な性能が発揮できるように致しました。
これから、エンジン開発の流れを①から④の順番に沿って、具体的に説明いたします。

新型エンジンのコモンアーキテクチャー

左の図はTNGA新型エンジンで目指す目標の物理量を示しており、走りと燃費を向上させるためには、この縦軸と横軸にある『吸入効率』と『筒内空気の乱れ』を同時に向上させる必要があります。
しかし、この2つの要素は、図に示します通り、トレードオフの関係にあります。新型エンジンでは、そのトレードオフラインを突き抜けた位置に目標を置き、その燃焼状態を我々が目指す『最適な燃焼』と定義しました。この『最適な燃焼』状態を、シリンダ筒内圧で示される燃焼波形として、コモンアーキテクチャー化しました。

先程の燃焼波形を、排気量の異なる全エンジンで再現するため、基本諸元を、動画でご紹介します。

最適燃焼をモジュール展開するための構造

最適な燃焼をモジュール展開してゆくために、理想のポート燃焼室構造を、高タンブル・高効率吸気ポート形状、バルブはさみ角、ストローク/ボア比などの設計諸元に落としこみます。
その諸元をモジュール化して、排気量の異なるエンジンに展開していきます。
直線的な、理想のポート形状を実現するために、モノづくりではレーザークラッドという新工法の開発に取り組んできました。

最適燃焼を可能にした工法・材料開発

レーザークラッドバルブシートとは、バルブが閉じたときにシリンダーヘッドと接触するシート部分に、特殊な合金を溶射させる技術です。
合金材料の開発から、それを高速でレーザー溶射する新工法まで、すべてをゼロから開発してきました。
この新技術は今後すべての新型エンジンに展開いたします。

新型エンジンの採用技術

ご紹介しました主要技術以外にも、従来のトヨタの高熱効率・低燃費エンジンと比較して、TNGAでは、全機種、新開発のマルチホールインジェクターにより直噴化し、世界初のトロコイド式の可変容量オイルポンプを採用するなど、更に多くの新技術を投入し、Dynamic Force Engineは大幅な進化を遂げました。

新型エンジンの性能

その結果、比出力と最大熱効率は、従来のトレードオフラインを突き抜け、世界トップレベルを達成しました。

新型エンジンの性能

これらの取り組みにより『Dynamic Force Engine』では、お客様が“走り”の魅力を日々感じられるよう、低回転から高回転まで全域でトルクアップを実現すると同時に、排気性能も大幅にクリーン化できました。