ステークホルダーへの技術紹介を通じた仲間づくりと、トヨタの技術資産の記録を目的に「トヨタテクニカルレビュー(TTR)」を発行しています。
目次
特集「モビリティを取り巻く課題を解決する車両データ活用 診断技術」
第2部 事故ゼロ/CNに向けた運転診断技術
- KINTOコネクティッドドライブトレーナーによる安全運転支援
交通事故低減、および、カーボンニュートラルへ貢献するため、ドライバーの安全運転、および、エコ運転スキル向上を目的として「コネクティッドドライブトレーナー」(CDT)を開発した。CDTは運転の癖を視える化する「運転コーチング」と、最適なアップグレードを提案する「アップグレードレコメンド」の二つの機能を提供している。これらのサービスは車載のセンサを活用しており、高精度で、短時間ウインカーや車幅感覚の診断といった自動車メーカーだからできる診断を提供している。 - レンタカー運転見守りによる安全運転支援
トヨタは、2022年からデータを活用し、沖縄の事故削減を目指す「沖縄ゆいまーるプロジェクト」に参画している。そのなかで、レンタカーのお客様向けに運転者の安全意識の向上を促すレンタカー用車載マルチメディア向け運転見守りアプリケーションを開発した。本稿では、当該アプリケーションの主要な機能である「安全運転状態の通知機能」、および、「危険地点の注意喚起機能」の機能の紹介をするとともに、2025年6月からレンタリース沖縄で行ってきた実証実験の結果、および、その考察結果を詳述し、今後の技術開発や機能向上にかかる課題についても言及する。 - 認知機能低下推定
本稿では、運転時の車両データのみからドライバーの認知機能低下を推定する技術の開発を行った。はじめに、研究機関と連携し、認知機能検査結果と車両データを含むMCI(Mild Cognitive Impairment : 軽度認知障害)ラベル付き運転データセットを構築した。次に、運転シーンの車両データを用いた認知機能低下推定手法として、運転シーン抽出、特徴量抽出、運転シーンごとの認知機能低下推定、複数シーン推定値の代表値算出という4ステップからなる手法を提案した。最後に、交差検証にて提案手法の精度を検証し、ドライバーの認知機能低下を有意に推定できることを確認した。軽度認知障害の早期発見可能性を向上することで、本稿は高齢ドライバーのQuality Of Life(QOL)維持、交通安全へ寄与するものと考えられる。 - 高齢者講習支援
本稿では、高齢者の運転寿命延伸を目指し、自動車教習所で行われている高齢者講習実車指導において、高齢者自らが運転能力を認識し診断結果を確認できるシステムの開発について報告する。開発にあたり、自動車教習所にご協力いただき、診断項目の選定、および、システムの実証試験を実施した。システムでは、車両データを用いたドライバー操作や車両挙動の解析、および、高精度な車両位置測位と教習コース図を用いた走行軌跡から運転診断を行った。受講者には受講後に運転診断レポートを、ご家族にはホームページで講習結果を閲覧可能とすることで受講者自身の心身状態を理解いただき、運転の再教育などの判断に活用いただくことを目的とする。
第3部 さらなる安心/点検効率化につながる車両診断技術
- メンテナンス部品の劣化状態予測
自動車を構成する部品のうち、メンテナンスが必要な部品は走行距離や経過期間を目安に交換されている。本稿では、車両の稼働・走行データを活用し、各ユーザの使用状況に応じて部品の劣化状態を予測する技術について、エンジンオイルを例に概要を紹介する。これにより部品交換を最適化し、カーボンニュートラルの推進、および、販売店現場の作業負荷低減に貢献する。本技術は国内KINTO車両へのコネクティッドカーケアとして導入済みで、今後グローバル展開・適用部品拡大を計画している。 - 軽衝突検知によるレンタカー点検支援
事故による車両損傷に対応する事業者様の負担を軽減するため、コネクティッドカーの走行データを活用した軽衝突検知技術を開発した。運転操作による加速度をLSTM(Long Short Term Memory)モデルで推定し、それを実測加速度から差し引くことにより軽衝突を検知する手法を提案。東京近郊のタクシー約1,000台の半年分データで実証し、実損額20万円以上の事故を約9割検知、加速度方向から損傷部位も推定可能であった。沖縄のレンタカー850台での実証では、地域特性による誤検知を後処理で抑制できることを示した。今後は極微細な衝突検知と誤検知抑制の両立に向け技術改良を進める。 - タイヤ離脱予兆検知
近年注目が高まっているタイヤホイールの離脱事故に対して、コネクティッドカーから得られる車輪速センサーを活用してその予兆を検知する技術を開発し、効果確認を行なった。約5ヶ月間、約55万台の車両データを解析し、販売店のご協力のもとで実車を確認することにより、ハブナット緩みなどの兆候を検出するなど、開発したアルゴリズムの有効性を確認することができた。一方で、ハブナット緩み以外の異常も多く検出されたことから、さらなる精度向上が求められる。今後、技術の深化と社会実装により、安全な車社会の実現に寄与する。
第4部 道路管理を効率化するインフラ診断技術
- 舗装点検支援
本研究では、コネクティッドカーから得られる車両プローブデータを活用し、舗装路面の平たん性やわだち掘れ状態を推定する技術の開発を行った。まず、平たん性の推定では、車輪速度の変動に基づく入力データを分析し、舗装路面状態を定量化する指標を生成した。補修履歴と比較することで、指標値の妥当性を確認し、実際の道路管理者と連携した実証実験により、道路行政でよく使われるMCI(Maintenance Control Index)指標に対し相関係数R=0.65との有用性を証明した。また、わだち掘れ状態の推定については、車両の横加速度を用いて路面反力の変化を評価し、相関係数R=0.75を記録する高精度な指標を確立した。これにより、道路点検の効率化と信頼性向上が期待され、技術の社会実装が進められる。 - 交通安全対策支援
本稿では、交通事故の削減を目指す道路安全対策における、トヨタのコネクティッドカーから取得した車両プローブデータの活用について報告する。車両プローブデータを統計処理して得られる急ブレーキ発生率、一時停止率、速度超過率といった定量的指標を用いることで、従来の主観的な調査では把握が難しかった危険地点の抽出や対策の優先順位付け、対策立案の支援が可能となる。さらに、安全対策前後のデータの比較をすることで、短期間で客観的な効果検証を行うこともできる。この技術は実証実験などで実際の交通安全施策にも活用され、その効率化に貢献している。 - 渋滞長推定
コネクティッドカーの車両プローブデータの活用が広がっているなか、トヨタでは車両プローブデータを活用した社会課題解決に取り組んでいる。そのなかから自動車の大きな課題である渋滞対策の取り組みを紹介する。地方自治体が管轄する道路は感知器が設置されていない道路が多く、渋滞対策は目視の現地調査を活用した対策が主である。よって、現地調査の費用と時間の都合上調査期間が限られてしまい、渋滞を正しく把握できない懸念があった。そこで車両プローブデータを用い、地方自治体が渋滞対策の指標とする渋滞長を再現し、現地調査の代替えとなるデータ作成技術を開発した。本稿ではその技術概要の紹介と愛知県豊田市での渋滞対策への活用事例を紹介する。
