モビリティカンパニーへのフルモデルチェンジに向けて

平素より、トヨタのクルマをご愛顧いただいておりますお客様、株主の皆様、ビジネスパートナーの皆様、地域の皆様のご支援を賜り、誠にありがとうございます。

これまでトヨタは、自動車産業という、確立されたビジネスモデルの中で成長を続けてきました。しかし今、「CASE」と呼ばれる技術革新によって、クルマの概念そのものが変わろうとしています。そして、クルマの概念が変われば、私たちのビジネスモデルも変えていかなければなりません。

CASE
Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の4つの頭文字をつなげた言葉で、この新しい領域での技術革新が、クルマ、ひいてはモビリティや社会のあり方を変えていくと想定されています。

CASEの時代に合わせたビジネスモデルの転換

例えば「電動化」を進めるにあたり、原点に立ち戻り、トヨタが取り組むべきことは何なのか考えました。

環境技術は普及しなければ地球環境改善に役立つことはできません。そう考えた時に、これまでとは違う発想が必要になります。

乗用車や個人向けにこだわらず、商用車や官公庁、法人から広げていく。単独開発にこだわらず、仲間と共同で開発する。特許を囲い込むのではなく、開放して仲間を増やす。クルマだけではなく、使い方とセットでシステムを売る。

つまり、これまでの発想を転換し、より幅広く、よりオープンに、より良い社会への貢献を追求することが、新しいビジネスモデルにつながるのではないか、との考えに至りました。

これから先は人々の暮らしを支える全てのモノ、サービスが情報でつながり、クルマを含めた町全体、社会全体という大きな視野で考えること、すなわち、「コネクティッド・シティ」という発想が必要となります。

「街全体で暮らしの新たな価値を創造する」という目的を共有し、一緒に「街づくり」を進めるため、今年5月、パナソニック株式会社と新しい合弁会社の設立に向けた契約を締結しました。両社の住宅事業を核としながら、クルマやコネクティッド事業を持つトヨタと、家電や電池、IoT事業を持つパナソニック両社の強みを持ち寄り、新たな生活スタイルの提供にチャレンジしていきたいと思います。

「人」が中心の未来に向けて

「コネクティッド・シティ」の発想で考えた時、これからの時代、トヨタ単独、クルマ単体では生きていけません。強みを持ち寄り、ともに競争力を高め合いながら協調できる「仲間」が必要です。また、CASEの進展とともに、時代は急激に「自動化」に向かって進んでいます。

この「仲間づくり」すなわち「アライアンス」の時代、そして「自動化」の時代を生き抜くためのヒントは、トヨタの原点であるTPSにあると思います。

トヨタのルーツである、豊田佐吉が発明した自動織機の最大の特徴は、糸が切れたら自動的に止まることです。このベースには、不良品を出さないということはもちろん、人間を機械の番人にしないという考え方があります。これをトヨタでは「ニンベンのついた自働化」と呼んでいます。

また、クルマづくりに挑戦した豊田喜―郎は、この「ニンベンのついた自働化」に、「必要な時に必要なものを必要なだけ作る」という「ジャストインタイム」の考え方を加えました。
お客様の期待を少しだけ先回りするという、製造業の究極のおもてなしです。

このように、TPSの2つの柱である「ニンベンのついた自働化」と「ジャストインタイム」のいずれにも共通するのが、「人」を中心に置くという考え方です。

自動化が進めば進むほど、それを扱う「人間」の力が試されると思います。人が進歩しない限り機械の進歩はなく、機械に負けない技能、センサーを超える感覚を持った人を育てるというのがトヨタの基本です。

また、仲間づくりをするのにも「人間」の力が必要です。仲間づくり、すなわちアライアンスは資本の論理や数の論理でつながることではありません。「志」「共感」「信頼」で結ばれた人間同士がつながることが、ともに未来を作るために必要なことだと考えます。

「人づくり」にとことんこだわる

「モノづくりは人づくりから」トヨタは常にこの考えのもと、人材育成に取り組んできました。
100年に一度の大変革の時代、私は改めて、トヨタの「人づくり」にとことんこだわっていきたいと思います。

本年秋の労使の話し合いの場で、私は、これからの時代を生き抜くために必要不可欠な2つの「力」について、次のように話をしました。

1つ目は、トヨタにしかないオリジナルの競争力、すなわち「TPS」と「原価を作り込む力」です。

喜一郎をはじめ、トヨタのリーダーズは、「お国のために」「お客様のために」「自分以外の誰かのために」という気持ちで、もっといいクルマづくりに愚直に取り組んできました。

常に「何のためにやるのか」を考え、ベターベターの精神でやり方を変えていくことは、TPSの精神そのものであり、トヨタがずっと大切にしてきた価値観です。この価値観を取り戻すことが、「トヨタは大丈夫」という慢心を取り除くことにもなると考えています。

2つ目は、相手の立場や考えを理解、尊重し、巻き込む「人間力」です。
私が「豊田綱領」を解説し、「創業の精神」に立ち返ろうと呼びかけた背景は、これからの時代を生き抜くために必要な「人間力」がそこに記されていることを伝えたかったからです。

これらの「競争力」「人間力」を身につけた人材は、現場でこそ育つと考えます。今こそ「現場主義」を取り戻し、未来をつくる人材を育てるため、全力で取り組んでまいります。

私たちの未来にご期待いただくとともに、引き続き、皆様方のご支援をお願いいたします。

2019年12月
トヨタ自動車株式会社 取締役社長
豊田 章男