みなさま、こんにちは。
豊田でございます。

思いおこしますと、孫さんと初めてお会いしたのは、いまから20年ほど前、ちょうど、国内でインターネットが普及し始めたころです。

当時、私は課長、友山は係長でした。
私たちは、トヨタ社内の抵抗をはねのけ、手づくりでGazoo.comを立ち上げました。
全国のトヨタ販売店で、中古車のインターネット商談を、やっとの思いで、実現することができたのです。

さらに、それを新車に拡大しようと全国を飛び回っていた矢先のことでした。
孫さんから、当時のトヨタ経営陣に対して、米国で生まれた「ネットディーラー」というシステムを国内の販売店に、導入しないか、というご提案があったのです。

Gazooにすべてをかけていた私たちからすれば、まさに、「ありえない!」お話でした。

最終的に、私と友山の2人で、孫さんのところに出むいて、ご提案をお断りしたことを、今でもはっきりと覚えております。

今でこそ、社長と副社長になりましたが、当時は、血気盛んな課長と係長でございましたので、いろいろ失礼もあったと思いますが、「若気のいたり」ということで、孫さんは、大目に見てくださったのではないかと感謝しております。

こうした経緯もあり、「トヨタとソフトバンクは、相性が悪いのでは?」と言う噂が、巷ではあったようです。

その証拠に、ヤフーで“豊田章男”と検索してみて下さい。

私の「しかめっつら」がたくさん出てまいります。

笑顔がたくさん出てくる孫さんとは大違いです。
このアルゴリズムは、どうにかしてほしいと思っております。

本日、この場にお越しいただいたみなさまの中にも、「なぜ、ソフトバンクとトヨタが?」そんな疑問を持たれた方がたくさんいらっしゃるのではないかと思います。

みなさまご承知のとおり、自動車業界は今、「100年に一度」と言われる大変革の時代を迎えております。

その変化を起こしているのは、「CASE」とよばれる新技術の登場です。

コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化といった技術革新によって、クルマの概念が大きく変わり、競争の相手も、競争のルールも大きく変化しております。

これからのクルマは、情報によって、町とつながり、人々の暮らしを支えるあらゆるサービスとつながることによって、社会システムの一部になると考えております。

本年1月、米国のCESで、私は、トヨタを、クルマをつくる会社からモビリティに関わるあらゆるサービスを提供する会社、「モビリティ・カンパニー」にモデルチェンジすることを宣言いたしました。
映像をご覧ください。

孫さんが「群戦略」という新しいグループ戦略を生み出されたように、未来のモビリティ社会を創造するためには、「仲間」という概念が大切になります。

トヨタの「仲間づくり戦略」は、3つの柱からなります。

第1の柱は、デンソーやアイシンなど同じルーツを持つグループ企業との連携強化です。

これを、私流に申し上げますと、「ホーム&アウェイ」戦略ということになります。

「ホーム&アウェイ」の視点で、グループ内の事業を見直し、重複業務を、より競争力のある「ホーム」の会社に集約する。あるいは、各社の強みを出し合って、新たな「ホーム」の会社をつくる。

そして、競争力のある製品を、グループ以外の会社も含めて、積極的に販売していくことによって、仲間を増やし、「デファクト スタンダード」にしていくことが重要になります。

理屈で申し上げますと、このような説明になるのですが、理屈で人は動きません。

私自身も、理屈を語るのではなく、行動で示すタイプの人間だと思っておりますので、私の実際の行動を、少しだけご覧いただきたいと思います。

トヨタグループの特徴は、「もともとのルーツが同じである」というところにございます。
これは、事業を行う上での、基本的な価値観を共有している、ということでもあり、トヨタグループの強みだと考えております。

しかしながら、企業経営は、人間の営みですので、たとえルーツが同じであったとしても、時間の経過とともに、関係が希薄になったり、方向がずれてきたりすることは、当たり前のように起こります。

それでも、私たちには、「クルマ」という、創業以来の共通言語であり、ブレない軸があります。
「クルマ」を前にして、「クルマ」を走らせて、本気で、本音で向き合えば、必ず心は通じ合うと信じております。
そして、心が通じた時に、はじめて、グループは、単なる組織の集合体ではなく、価値観を共有した仲間、同志になるのだと思うのです。

第2の柱が、ほかの自動車メーカーとのアライアンスの強化です。

スバル、マツダ、スズキなどとのアライアンスがあげられますが、これらは資本による規模の拡大を目的にするものではありません。

いずれも、開発技術、生産技術、販売網など、お互いの強みをリスペクトし、「もっといいクルマづくり」に向けた競争力強化を目的にするものです。

例えば、昨年9月、マツダ、デンソー、トヨタの3社でEV CASという会社を設立いたしました。

この会社では、お互いの強みを持ち寄ることで、EVの新たな開発手法を生み出すことに挑戦しております。

いまでは、スバル、スズキ、ダイハツ、日野、いすゞ、ヤマハを仲間に迎え、「もっといいEV」に向けた活動を加速しております。

こうした動きを、私流に申し上げますと、「愛がつくモビリティ」にこだわり続ける、クルマ屋同士の連携ということになります。

そして、第3の柱が、モビリティサービスを提供する、新しい仲間とのアライアンスの強化です。

ウーバーやグラブ、ディディ、ゲットアラウンドなどとの提携がこれにあたります。

こうした方々の多くは、孫さんの「群戦略」の仲間になられています。

私たちの「仲間づくり戦略」の第3の柱を進めていくためにも、ソフトバンクとの提携が重要なカギを握っているのです。

トヨタが、「クルマをつくる会社」であった時には、実現しなかったソフトバンクとの提携が、「モビリティ・カンパニー」を目指そうと考えた20年後には、必要不可欠なものになっていたのです。

私たちから見たソフトバンクの強みは、未来のタネを見抜く先見性、「目利きの力」にあります。

一方、私たち自身の強みは、トヨタ生産方式、TPSに基づく「現場の力」にあると思っています。

これは、やりたいこと、やるべきことを、リアルの世界で、実現させる力であり、ベターベターの精神で、改善を続け、もっと良いものに進化させていく力でもあります。

クルマは「売ったら終わり」のビジネスではありません。
むしろ、「売ってから始まる」ビジネスです。

1台のクルマはオーナーを変えながら、20年以上にわたって、かけがえのない「愛車」として、お客様のカーライフを支え続けます。

私たちには、世界中に、ディーラーネットワークがあります。
日本国内で申し上げますと、レンタカーも含め、6000店舗の拠点があり、そこには、長い年月をかけて、リアルの世界で、築きあげてきたお客様との信頼関係があります。

この信頼に裏打ちされたネットワークこそが、新しいモビリティサービスを展開する上での、私たちのアドバンテージになると考えております。

私たちには、クルマを「愛」のつく製品として守り続け、闘い続けてきた多くの仲間がいます。

そして、ソフトバンクには、モビリティに関わる新しいサービスを生み出し、もっと楽しい「モビリティ社会」を生み出そうと闘い続けている多くの仲間がいます。

今回の両社の提携は、こうした仲間を巻き込んで、まだ見ぬ未来のモビリティ社会を「現実のものにする」ための提携だと考えております。

本年7月、私どもの創業者である豊田喜一郎が、米国自動車殿堂に入りました。

トヨタ創業から80年以上たった、この大変革の時代に、喜一郎の功績が認められたことは、私にはただの偶然とは思えません。

喜一郎は、いつも、こう言っていたそうです。

「自分は織機の技術では世界の誰にも負けない自信がある。しかし、自動車については、何もやらなかった。みんな部下や仲間がやってくれた」。

その言葉には、「自動車事業は一人ではできない。多くの仲間が心をあわせて、汗を流してくれるからできるのだ」という感謝の気持ちが込められておりました。

このタイミングでの喜一郎の米国自動車殿堂入りは、大変革の時代を迎えている私たちに対して、「未来は決して一人ではつくれない。志を同じくする仲間とつくるものだ」。
そう言われている気がしてならないのです。

私は創業者ではありません。
継承者です。

歴代のトヨタのトップが継承してきたものは、「日本のために、世界のために、次世代のために」。
すなわち、「自分以外の誰かのために働く」という精神であり、「未来をもっとよくするために、仲間とともに働く」という精神だと思っております。

ソフトバンクとトヨタ、両社が、仲間とともに描く、「モビリティの未来」にご期待ください。

本日はありがとうございました。

以上