トヨタ自動車株式会社は、2021年9月7日、電池・カーボンニュートラルに関する説明会を開催しました。説明会の模様を動画でご覧いただけます。
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Chief Technology Officer 前田 昌彦 プレゼンテーション
トヨタ自動車の前田でございます。
本日はお忙しいところお集まりいただきありがとうございます。
本日は、カーボンニュートラル実現に向けたトヨタの電池の開発と供給のお話をさせていただきます。
まず、改めて、カーボンニュートラルとは、工業製品を例に挙げますと、原料の調達に始まり、つくる、運ぶ、使う、リサイクルして最後は廃棄する、製品のライフサイクル全体を通して発生するCO2をゼロにするということです。
皆様ご存知の通り、世界のCO2濃度は産業革命以降、増加し続けています。
人類が排出するCO2排出量をトータルで削減することに、もはや一刻の猶予もありません。
自動車産業で言えば、電動化を進める事は、カーボンニュートラルに近づくための効果的な方法の一つです。
たとえば我々の試算ではHEV3台のCO2削減効果は、BEV1台とほぼ同等です。
現時点では比較的HEVの方が安価に提供できるので再生可能エネルギーがこれから普及していく地域ではHEVを活用した電動化などもCO2削減に効果的だと思われます。
一方で再生可能エネルギーが豊富な地域ではBEVやFCEVなどのZEV(ゼロエミッションヴィークル)の普及がより効果的だと考えています。
さらに南米のような地域では、バイオエタノールをCO2削減への対応として実用化されている例もあります。
以上のように我々はどうやって炭素を排出しないようにするかもしくは削減してゼロに近づけていくかに集中するべきです。
エネルギー事情が違えば、CO2排出量を削減する選択肢も異なるのでカーボンニュートラルの達成に向けて選択肢が拡がる様に、様々な方策にトライを続けていきます。
このような視点に立ち、トヨタは電動車両をフルラインナップで準備しています。
それぞれの地域においてお客様の利便性を考慮しつつ、CO2排出量を削減する、「サステナブル&プラクティカル」な商品を提供したいと考えています。
まず、これまでの電動車の実績を振り返ります。
トヨタは1997年に初代プリウスを導入以降、性能向上もはかりつつ、PHEV、FCEV、BEVを投入してきました。
その中でHEVは累計1,810万台ほどになっています。
先ほども申した通り、HEV3台分のCO2排出量削減効果がBEV1台分に匹敵するので、これまで販売したHEVは、約550万台のBEVと同等と言えます。
今まで作ったHEV用電池の量は、約26万台のBEVに搭載する電池と同じです。
つまり、BEV26万台分の電池で550万台分のCO2削減を進めてきたと言えます。
今後は、市場の変化も鑑み、今までの経験で得た強みも生かして、BEVやPHEVの導入も加速させ、電動車の選択肢を増やすことによって、各地域のお客様に選んでいただき普及を加速させることでCO2排出量の削減に努めてまいります。
電動車フルラインナップを支えるコア技術はモーター、電池、パワーコントロールユニットの3つです。
本日は、その中で電池について、トヨタが電動車を量産する中で培ってきた独自の考え方や競争力について、皆様にご理解いただきたいと思います。
電動車フルラインナップを進める中で、電池もフルラインナップで開発・製造を進めてきました。
HEVは出力型、いいかえると瞬発力を重視し、PHEV・BEVは容量型、いわゆる持久力を重視しています。
HEV用電池として、ニッケル水素電池とリチウムイオン電池をそれぞれの特徴を活かして継続的に進化させてまいりました。
今年発表した、瞬発力を重視したバイポーラ型ニッケル水素電池も今後搭載車種を拡大してまいります。PHEV・BEV用のリチウムイオン電池は今までもコストと持久力の両立をはかってきて今後も継続的に改良させていきます。
2020年代後半には、さらに進化させた新型リチウムイオン電池をお届けするべく開発を行っています。
ここからは電池の開発においてトヨタが大事にしていることを説明したいと思います。
トヨタが最も大事にしていること、それはお客様に安心して使っていただくということです。
安全・長寿命・高品質・良品廉価・高性能という5つの要素をいかに高次元でバランスさせるかということを重視しています。
例えば、長寿命化は車両残価にも影響します。
航続距離を考えればエネルギー密度の高さという高性能も必要です。
充電速度は速くしたいですが、速くしすぎても安全性に影響します。
ですので、それぞれの要素のバランスをとる事が、安心に使っていただくために重要だと考えています。
この考え方は初代プリウスに電池を搭載した時から変わらず電動車両すべての電池に共通の考え方です。
これまでHEV用電池で培ってきた技術を、これからのBEV用電池にも活かすことで安心して使っていただける電池をお届けします。
それではリチウムイオン電池を題材に、安心して使っていただける電池を作る上で必要な多くの取り組みの中から、事例を3つご紹介します。
一つ目は安全を確保する事例です。
スポーティな走りなど、電池に大きな負荷がかかる走りでは電池セル一つ一つに局所的な異常発熱の兆候が見られることが分かっています。
私たちは電池の中で起こっている現象を解析し、膨大なモデル実験を行うことで、走り方が電池内部に与える影響とそのメカニズムを明らかにしてきました。
その結果をもとに、電圧・電流・温度を、一つ一つの電池セル、それが複数集まったブロック、そして電池パック全体と、多重で監視することで、セルの局所異常発熱の兆候を検知しています。
そして、異常発熱を未然に防ぐ電池の制御を行っています。
一つ一つの電池の局所に至るまで安心・安全、信頼性を確保する思想はBEVのシステムでも変わることなく磨き続けていきます。
2つ目は長寿命への拘りです。
HEV用の電池開発で培った技術をPHEVに活かし、C-HR EV用の電池ではそれまでのPHEVに使用していた電池より、10年後の容量維持率を大幅に向上しました。
さらに間もなく市場投入を予定しているTOYOTA bZ4Xでは90%という世界トップレベルの耐久性能を目標に置き、達成に向けて、開発の詰めを行っています。
長寿命を達成するために、取り組んでいる開発の中から一例を紹介します。
リチウムイオン電池内部の詳細な解析から、電池の負極の表面に発生する劣化物が、電池の寿命に大きく影響する事が分かっています。
この劣化物の発生を抑制するために、発生メカニズムを明らかにし、材料の選定、パック構造、制御システムなど様々な面で対策を行っています。
詳細な解析と対策の積み重ねを丁寧に実施することで耐久性能向上につなげています。
3つ目は高品質への取り組みの一例です。
製造工程において電池に金属異物が入り、正極と負極が電気的に直接つながってしまうと故障に至る可能性があります。
工程内に入り込んでしまう異物の形状・材質・大きさと耐久性への影響を確認し、電池へ影響を与える関係性を明確にしました。
それを基にサイズ・形状にまで気を配り、該当する異物は発生させない、入らないように管理を行っています。
以上、本日ご説明したものはほんの一部に過ぎないですが、こうした地道で綿密な解析、今までのHEV用電池のフィードバックから得た経験により、安心して使っていただける電池をこれからもお届けしていきたいと思っています。
次に今年7月に発表した新型アクアに採用したバイポーラ型ニッケル水素電池について説明したいと思います。
豊田自動織機と共同開発を行い、バイポーラ構造にチャレンジし、駆動用車載電池として実用化しました。
旧型アクアに搭載した電池と比較しても出力密度は2倍に向上し、パワフルな加速感を感じられるようになりました。
次世代BEV用の電池としては、1996年に発売したRAV4 EV以降、培ってきたBEVの技術やHEVで培った電池・電動車両の最新の技術をTOYOTA bZ4Xに織り込み、まもなく市場に投入します。
ここからは将来の電池について、説明します。
BEVの普及のためにはコストを低減し、リーズナブルな車両価格でお届けしたいと考えています。
まず電池そのもののコストを、材料や構造の開発によって30%以上の低減を目指します。
そして車両としては、1kmあたりの消費電力の指標である電費をTOYOTA bZ4X以降、30%改善を目指します。
電費改善は電池容量の削減につながるのでコストを30%低減できます。
このように車両・電池一体開発を行うことで、20年代の後半には、TOYOTA bZ4Xと比較し、台当たりの電池コスト50%低減を目指します。
これからの次世代電池について説明します。
液系電池は、材料の進化と構造の革新に挑戦します。
さらに全固体電池の実用化も目指していきます。
以上、3タイプの電池開発を行い、2020年代後半にはそれぞれの特長をレベルアップし、安心して使っていただける電池をお届けしたいと思います。
次に全固体電池について説明します。
全固体電池では、高出力、長い航続距離、充電時間の短縮、などの嬉しさが出せないか、と開発しています。
昨年6月、全固体電池を搭載した車両を製作しテストコースで走行試験を実施し、車両走行データを取得できる段階に来ました。
そのデータをもとに改良を重ね、昨年8月、全固体電池を搭載した車両でナンバーを取得し、試験走行を行いました。
開発の中で分かってきたことがあります。
全固体電池は、イオンが電池の中を高速に動くため高出力化に期待できます。
そこでHEVにも適用して全固体電池の良さを活かしていきたいと思います。
一方、寿命が短いという課題も見つかりました。
これらの課題を解決するためには、引き続き固体電解質の材料開発を主に、継続していく必要があると考えています。
課題が見つかったことで実用化に一歩近づけたという想いもあります。
BEVの普及のためには、電池供給体制の構築も重要です。
電動車両が急拡大する中、グローバルの地域ごとの様々なお客様のニーズに応えながら必要なタイミングで、必要な量を安定的に供給できるフレキシブルな体制構築を進めております。
電池開発のコンセプトである<安心に使っていただける電池>を目指すために一定量のグループ内生産で技術を確立し、そのコンセプトをご理解し実現いただけるパートナーの皆さまと協調、連携して、地域によっては新たなパートナーとの協議も進めます。
パートナーの皆様と、およそ3年後の電池必要量を議論し計画に織り込む体制を作っています。
グループ内でも生産立ち上げのリードタイムを短縮し、変化に適応力のある体制を整えていきます。
2030年までの電池の開発と供給についてまとめます。
開発は、車両・電池一体開発によって台当たりコスト50%以下の実現を目指します。
供給は、変化するお客様のニーズに合わせフレキシブルに対応します。
例えば、BEVの普及が予想以上に早い場合も現在検討している180GWhを超えて、200GWh以上の電池を準備することを想定しています。
以上、説明してきた、電池の供給体制の整備と研究開発の投資額は、2030年までに約1.5兆円になると見込んでいます。
開発と供給の両方の体制を整えることで私たちはBEVを含む電動車の普及を進めてまいります。
目指すべき2050年のカーボンニュートラルに向けて、今後、継続的に各地域のエネルギー事情やインフラ、お客様の感性、利便性への要求は変わっていくと考えられます。
電動車において、クルマと電池は切り離せるものではなく、1997年から電池のグループ内生産に拘り、HEVだけでも1,810万台を導入してきたトヨタは、電池開発をグループで取り組んできた自動車メーカーであり、不確定な電動車の未来にも、確かなステップで前へ進んでいきたいと考えています。
未来にサステナブル&プラクティカルに適応していくためには、トヨタは、変化への適応力、自らの競争力を高め、もっといい電動車の本質的普及を目指し、カーボンニュートラルに貢献していきたいと考えます。
ご清聴どうもありがとうございました。
以上
~マイナスからゼロへ、ゼロを超えた新たな価値を~
トヨタは、「地球という美しい故郷(Home Planet)を次世代に引き継ぐ」ために、社会や個人が抱える様々な課題の解決(マイナスをゼロにする)に取り組むだけではなく、ゼロを超えた新たな価値の創出・提供を目指し、「回答のない未来へ弛まぬ挑戦」を続けていきます。
- BEYOND ZERO
- https://global.toyota/jp/mobility/beyond-zero/
トヨタは、革新的で安全かつ高品質なモノづくりやサービスの提供を通じ「幸せを量産する」ことに取り組んでいます。1937年の創業以来80年あまり、「豊田綱領」のもと、お客様、パートナー、従業員、そして地域社会の皆さまの幸せをサポートすることが、企業の成長にも繋がると考え、安全で、環境に優しく、誰もが参画できる住みやすい社会の実現を目指してきました。現在トヨタは、コネクティッド・自動化・電動化などの新しい技術分野にも一層力を入れ、モビリティカンパニーへと生まれ変わろうとしています。この変革の中において、引き続き創業の精神および国連が定めたSDGsを尊重し、すべての人が自由に移動できるより良いモビリティ社会の実現に向けて努力してまいります。