クルマと愛とサウンドを語らせたら止まらない2人が、レースの楽しさを、実際のレースやレースをめぐる人たちなどを訪ねながら紡ぐオリジナル連載(#41)です。
筑波サーキットではレースや車の話と同じくらい、音楽の話をした。メロディに続いて、横山剣は歌詞について、どう思っているのか。歌詞はどうやって作っているのか。
歌詞はどこから来る?
(歌詞はどうやって浮かんでくるんですか?)
―歌詞はケースバイケースなんですけど、代表的なのは歌詞とメロディが「せーの」で一緒に出てくるパターンです。
たとえば、「タイガー&ドラゴン」ですね。「オレの話を聞け」とか。
(歌詞だけが先にという曲もあります?)
―あります。例えば「タオル」という曲があるんですけど、あれは歌詞じゃなくて、自分が連載していたコラムの文章に書いていた文章を要約してメロディに当てこんだら、1曲できた、と。
「ヨコスカン・ショック」という曲、あれもコラムで書いてた内容を曲にしました。
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(「タオル」、最高です。夏にプールに行って女子高生をナンパする話。あれはきっと実体験なんだろうなと思いました)
―あれは珍しく実体験。
(プールはどこですか?)
―本牧市民プール(笑)。
(もう、まったく実話ですね。では、曲中に出てくるファラ・フォーセットみたいなちょっと生意気な女子高生と会った、と……)
―ええ、生意気な高校生そのもの。
(ねえ、40年前ですね。今はその女の子、どうなってるんだろう…)
―実は長者町フライデーのライブにいらっしゃったんですよ、生意気な高校生だった方が。ええ…。ええ…。
(わかりました。…ですよね。なんといっても40年前ですから。えへん、では、歌詞の話に戻ります。)
―ありがとございます。そうしてください。
(歌詞というのは、メロディとはやっぱり浮かび方は違いますか?)
―そうですね、曲はメロディだけ浮かぶ場合と、歌詞と一緒に出てくるやつがあります。で、一緒に出てきた場合、その言葉とか内容を変えようと思っても、違う言葉はやっぱりはまらないんです。
たとえば、「オレの話を聞け」と歌詞とメロディが同時に出てきちゃったら、どうしてもそれをそのまま使わないといけない。いわば限定されるわけです。まあ、限定されたからこそ曲の世界観が出てくるわけですが。
(横山さんの曲のうち、たとえば「けむり」はやはり、焼き肉屋で食べていて、歌詞が浮かんだのですか?すみません、「けむり」の話ばかりで)
―ちょっと忘れちゃいましたが、多分、韓国のホルモン焼き屋でイメージが浮かんで、京畿道の平沢(ピョンテク)からソウルに向かう高速バスの車内で曲になったんだと思います。当時、僕は韓国にグッズを作りによく出かけていたんです。Tシャツとかグッズを。その時、コーディネーターの人が「自分の戦友だった友達を呼ぶから、一緒にカラオケへ行こう」となったわけです。
僕が韓国の歌を歌ってたら、やってきた戦友はもう1本のマイクで僕よりも大きな声で、「おまえには負けない」って感じで歌いだして…。
戦友の人、強烈な人だったんですよ。歌詞にある通り、「泣いて、笑って、笑って、泣いて」そして、怒って、帰っちゃったんですけれど(笑)。いえ僕と喧嘩したわけじゃないですよ。コーディネーターとその戦友が勝手にケンカして、戦友が帰ったという…。
(戦友というのは?)
―韓国って二十代の時に徴兵があるから、そこで友達になった人は戦友なんです。カラオケで、ふたりは友達同士なのに勝手にケンカが始まって…。泣いて、笑って、怒って、帰った(笑)。
(あれは洞口(信也 CKB ベース)さんがモデルじゃないんですね。)
―ええ。でも、戦友さんのイメージが信ちゃんに似ていた。戦友さん、豪快でおもしろくて、喜怒哀楽が激しくて。そういう人間らしい人にグッと来て、楽曲になったわけです。
作詞家になろう。
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(僕らが歌詞を思い浮かべようとするならば、何をすればいいんでしょうか?)
―僕の場合は歌詞が思い浮かばない時は本を読んだりして、そのなかの語感がいいやつをサンプリングしたりする。そうすると、そこから言葉がわーっと広がるというのもあります。
「宇宙興業」という曲があるんですけど、あれのヒントは1960年代か70年代の『平凡パンチ』か『プレイボーイ』に載っていた文章なんです。
風俗街を歩くみたいな内容の記事の舞台を宇宙に変えて、ほとんどそれをそのまんま、文章を読みながらそれにメロディを付けて歌ってみたという。ただし、そのままというわけにはいかないので、言葉はずいぶん変わっていますし、僕の妄想を織り交ぜてます。
「宇宙興業」は風俗とかバクチについての歌ですが、僕自身には経験がない。そこで、妄想をたくましくして、広げていって歌詞にしました。
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(作曲の神様、古賀政男先生が言っていますが、「音楽に大切なのは歌詞だ。メロディじゃない」と。古賀先生は大作曲家なんですが、大切なのはどっちかと聞かれたら、それは歌詞だと)
―なるほど。そうですね。だって詞のせいで曲が悪くなっちゃうこともあるぐらいですから。だから僕は楽曲様に失礼のないよう歌詞には気を遣うというのがあります。
(たとえば、どういったところに気を遣うのですか?)
―ええ、どの曲も、です。曲も歌詞もどちらも水準以上を目指すというか、ぴたりとはまるようにしているのですが。
僕としては手を抜いたわけじゃないですけど、ちょっとなんかぴたりとしないやつがあると、トロンボーンの(河合)わかばさんが目ざとくやってきて、「ここは手を抜いたでしょう」みたいに言われる。で、「バレた?」(笑)って。
(どれですか、バレたのは?)
―なんの曲だったかな、タイアップ系にそういうのがあったりして。クライアントの希望する部分と、自分の感覚とのギャップがあったりすると、なかなかギア入ってない感が出てしまうのかも。それを敏感に感じとるのがわかばさんです。
(鋭いですね、わかばさん)
―ええ。
曲の歌詞について
(「あるレーサーの死」で、シャラララーラーラララララ、シャルルドゴール、ルールルルルから始まる藤村有弘(コメディアン、俳優 ひょっこりひょうたん島のドン・ガバチョの声)のようなフランス語の歌詞はどうやって思いついたのですか。)
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―あれは、その辻褄が合っていないものを、何とか言葉で繋いで回していくという感じというか。考えて作った歌詞じゃないのに、ちゃんと合ってるわけです。というか、空港から着いたパリの街角の風景と体験をそのまま歌詞にしたわけです。
あの部分はメロディと同時に浮かびました。
シャルルドゴール、ル、ル、ル、ル、ル…のあとは以下です。
「Je ne comprends pas/私はフランス語は理解できません」
「Bonsoir/こんばんわ」
「Deux cafés s'il vous plaît/珈琲をふたつお願いします」
ただ、知ってる単語を並べて小節を埋めたわけです。
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(「葉山ツイスト」の歌詞で、「あけみもよしこもまりちゃんも うっとりしてる」とありますが、あの人名は、なぜ、あけみとよしことまりちゃんなんですか?実在の人たちですか?名前の漢字もあるのでしたらお教え下さい。また、なぜ、あけみとよしこは呼び捨てで、まりだけ「ちゃん」がついてるのでしょうか?)
―朱美さんは、昔、COOLS等のコンサートの主催をしていた女性の名前。淑子さんはダックテイルズというバンドでレギュラー出演していたお店の近くの医院のナースです。
麻利さんは僕のムスタングやシボレー・ノヴァをレスト・ロッドというスタイルにカスタムしてくれた静岡ライジングサンの山本社長の奥さんの名前。麻利さんはお父さんが乗っていたフェンダー・ミラーのセドリックを僕にタダでくれました!
「葉山ツイスト」で歌われてるフェンダー・ミラーのセドリックはまさにこのクルマがヒントになっています。
なお、麻利さんだけちゃんがついているのは言葉の寸法の都合です。
(歌詞については、次から次へと質問が浮かんできます。「太陽のプレイメイト」に出てくる、ハニー・レーヌ、エルビス、ジャンセン、浜美枝、尾崎紀世彦といった言葉は頭の中から出てきたのですか?それとも資料を眺めて、言葉の寸法も考えて、当てはめていったのですか?ある時代のアイコンをストレートに出してくるのが横山さんの歌詞の特徴のように思います。ただ、ユーミンも「ベレG」とか「私のフランソワーズ」とかやっています。そうなると、作詞家のアプローチのひとつなのでしょうか?)
―そうですね。「太陽のプレイメイト」はメロディとコード進行が先に浮かんだんですが、メロディの意図するものを歌詞で訳した感覚ですね。歌詞がメロディに押し出されたというか。
(「BOMB! CUTE! BOMB!」オーイェー、カモーン、ベイベー…。これで1曲にしてしまう力業の秘訣を教えてください。また、この曲はメロディが先ですか?それとも歌詞が先ですか?)
―これは何の脈絡もなく、突然、言葉とリズムとバックトラックが「せーの」で浮かんで来た感じです。メロディはないんですが、ラップとも全然違う感じです。
著者
- 横山 剣(よこやま けん)
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1960年生まれ。横浜出身。81年にクールスR.C.のヴォーカリストとしてデビュー。その後、ダックテイルズ、ZAZOUなど、さまざまなバンド遍歴を経て、97年にクレイジーケンバンドを発足させる。和田アキ子、TOKIO、グループ魂など、他のアーティストへの楽曲提供も多い。2018年にはデビュー20周年を迎え、3年ぶりとなるオリジナルアルバム『GOING TO A GO-GO』をリリースした。
- クレイジーケンバンド公式サイト
- http://www.crazykenband.com/
- 野地 秩嘉(のじ つねよし)
- 1957年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務、美術プロデューサーなどを経てノンフィクション作家。「キャンティ物語」「サービスの達人たち」「TOKYOオリンピック物語」「高倉健ラストインタヴューズ」「トヨタ物語」「トヨタ 現場の『オヤジ』たち」など著書多数
以上