日本自動車工業会会長 豊田章男スピーチ

豊田でございます。

本日は急遽、お時間をいただき、ありがとうございます。

今日は、自工会だけでなく、先ほど、紹介のあった自動車製造に関わる3団体の皆様と共に、お話しさせていただきたいと思います。

よろしくお願いいたします。

  1. 医療従事者など戦う人への感謝

先日の自工会の会見で私から

世の中にはコントロールできる話とコントロールできない話がある

コントロールできないことに深刻になればネガティブになる

自分がコントロールできることをしっかりやっていこう

コントロールできないことを誰かがやってくれていたら感謝しよう

そんな話をさせていただきました。

まずは、我々ではコントロールできない所で戦ってくださっている

医療従事者の方々や輸送関係など我々の生活のために動き続けてくださっている方々

そして、それを支えるご家族の皆様に心から感謝申し上げたいと思います。

そして、この感謝は“日本に向けて”だけではございません。

我々は、あらゆる国と地域で事業を展開しており、それぞれの地にも、日々、最前線で戦ってくださっている方々がいらっしゃいます。

日本からのメッセージがどこまで届くかは分かりませんが、日本の自動車産業、全員、心から感謝し、エールを送り続けたいと思っております。

本当に頑張ってください!

  1. 医療崩壊させないために

日本の話に戻りますが、今、日本も本当に危機的な状況です。

もし、感染者数がさらに増え、医療が崩壊してしまえば、日本は立ち直れなくなるかもしれません。

まずは、私どものコントロールできることで、お役に立てることを、少しずつ、始めていければと思います。

従来、会見の場は、既に決まったことだけをお伝えする場でした。

ですが、本日の内容にはこれから考えていくことなど、我々の想いや宣言のようなものが含まれております。

具体的に決まっていなくても想いをお話しすることで、それなら一緒にやってみよう!と手を挙げてくださる方が出てくるかもしれません。

そうすれば、もっとスピーディで、もっと大きな動きにしていけます。

危機的状況だからこそ、そういうことが必要だと考えました。

そこをご容赦いただき、お聞きいただければ、幸いです。

  1. マスクの自給自足

話を戻します…。

医療崩壊をさせないため…少しでも役に立てること…

そのひとつ目は、我々、自動車産業の手でマスクを作ることです。

しかし、これは、まだ、皆様にお届けするほどの品質も、数量も確保できておりません。

車の部品から作ったマスクの最初の試作は、実際、ゴワゴワでした…。

改良も進んでおりますが、まず、これらは、自分達の身を守るために使ってまいります。

その分、外からの購入を減らし、少しでも需給緩和に寄与できればと考えております。

  1. 隔離施設の自給自足

また、私どもには空いている寮や保養施設がございます。

例えば、トヨタグループだけでも、1,500室程度、自工会会員各社では合計3,000程度の部屋が用意できる見通しです。

現在は、海外赴任からの帰国者用に活用しておりますが、状況によっては、軽症患者が療養する施設として使っていただくことも考えてまいりたいと思います。

  1. 人工呼吸器製造の改善支援

人工呼吸器の製造を期待する声があることも認識しております。

しかし、これは、人の命に直結する医療器具です。

自動車も人命に関わる製品ですので命に関わるモノづくりが、どれだけ難しいかを我々は理解しています。

簡単なことではありません。

まずは、医療機器を作っている方々のところに行き、その生産を一つでも増やせるような、生産工程の改善など、我々のノウハウが活かせるサポートを始めてまいります。

  1. その他の医療現場サポート活動

また、人命に直結しないものでも、医療現場のサポートに繋がるものがございます。

患者さんの移送に必要な車両の提供やそれに適した車にするための改造または病室用ベッドの部品などの製作に、取り組んでまいります。

まずは、我々の得意領域や現有資産の活用で、皆様のお役に立てることを、やってまいりたいと思います。

  1. 現場の実態を把握する(空港レンタカー店舗の頑張り)

もうひとつ、我々の仲間が頑張っている話をさせてください。

空港のレンタカー店舗の話です。

海外から帰国される方は、空港での検査が通ると、感染拡大防止のため、車でご自宅に向かわなければいけません。

空港のレンタカーには、お客様が次々とご来店されます。

しかしながら店頭のメンバーには、防護具が展開できておらず、マスクのみで対応しているメンバーも多くいます。

大きな不安の中で、お客様のために日々頑張ってくれています。

なんとか、彼ら、彼女らのために、防護具を届けたいと思い各所と相談を続けております。

おそらく、どこの現場も想定外のことばかりが起きています。

現場で起きていることを、いち早く掴み、やれることを、すぐに考えていくことが、今は大切だと思っております。

  1. 経済も危機的状況

危機的な状況は、経済の面でも同じです。

今まで全世界で9,000兆円あったGDPが、3ヶ月で15%から20%程度なくなってしまいました。

各国でも経済対策が発動される中、日本においても108兆円の緊急経済対策がアナウンスされました。

過去最大の対策を、迅速に、ご決断をいただいた政府に、この場を借りて、お礼申し上げます。

しかし、それでも、足もとの状況は、本当に苦しいものがあります。

人類がコロナの脅威に打ち克つ日は必ずきます。

ですが、このままでは、それより前に、日本経済が疲弊し、崩壊しかねません。

我々、自動車産業は、崩壊の歯止め役として、なんとか、お役に立ちたいという想いです。

  1. 自動車産業の波及力

我々、自動車産業には、約550万人の就業者がいます。

これは、日本の就業人口の約1割にあたります。

そして、自動車には、他の産業へ波及する力がございます。生産波及を数字で表すと“2.5倍”。

これは、自動車が“1”生産すれば、世の中の生産が“2.5”誘発されるという数値で日本の産業別ではトップのレベルです。

私たち自身が踏ん張って経済を回し続ける、そして、なんとしても雇用を守っていくことが崩壊を食い止めるための大きな力になると自覚しております。

そのために、絶対に事業を止めぬよう努力してまいります。

自動車に関わる全員が、まずは、絶対に感染しないよう予防を徹底することも、本当に大切だと考えております。

また、それは医療崩壊を食い止めるためにも大切なことであるとも思っております。

  1. 国内生産にこだわり、残したもの

リーマンショックと、その後に起きた東日本大震災…

苦しかった当時、私は、国内生産に強くこだわりました。

そのことに対し、多くの方から経済合理性からすれば、国内にとどまるのは間違いであるとご指摘いただいたことを、今でも、覚えております。

震災の後、東北の“真の復興”のためには、一過性の支援ではダメだ…と東北に新たな自動車車体の企業を設立し、モノづくりの学校もつくりました。

クルマづくりを根付かせていこうと、息の長い復興支援を目指したものでした。

あれから9年が経った東北の姿を見てみますと、当時500億円だった自動車の出荷額は、今、16倍の8,000億円に増加いたしました。

また、部品メーカーを中心とした仕入れ先企業は、当時の約100社から170社に増え、人口流出の多い地方でありながら就業人口を3,000人増やすこともできております。

これは、本日、一緒に並んでいる自動車4団体が一丸となって、東北の復興に取り組み、実現してきた姿です。

そして、東北には、新しい技術や技能が生まれています。

その技は伝承されていき…それを習得した人が、また次の人を育てていっています。

そうして、自らの働ける場所を維持し、発展させてきました。

あの時、日本のモノづくりを残すんだと決意し、国内生産にこだわったことは、間違いではなかったと思っております。

  1. コロナ対応で改めて心に刻んだこと

今回、コロナの脅威を前に、我々は必要なものが思うように手に入らないという状況に陥りました。

例えば、マスクも、そのひとつですし、医療用シールドも、そうです。

こうなった時に自分たちで、必要なものを作れることの大切さに、我々は、改めて気がつきました。

なぜ作れるのか?それは日本にモノづくりが残っていたからです。

リアルなモノづくりの現場は、絶対に失ってはいけないんだと改めて、強く心に刻みました。

  1. モノづくりを失わないための新たな試み

全世界的に車が売れない日々が続き、稼働を止めざるを得ない工場も出てきました。

もし、これが続いてしまえば、経営が立ち行かなくなる仲間も出てくるでしょう。

しかし、その中にも未来に向けて絶対に失ってはいけない要素技術やどんな機械にも真似できない技能を持った人材が存在しています。

それらが外に流出したり、途絶えてしまえば、我々が目指す未来は、きっと何年も遠のいてしまいます。

手遅れになる前に、タイムリーにそれらを新たな資本と結びつけていかないといけません。

その時に必要なのは本当に残すべきものはなにか?を見極めていく“目利きの力”です。

おそらく、その力は、モノづくりを理解している、我々、自動車4団体自身にしかありません。

我々の持つ目利きの力と、自動車の未来に賭けようとしてくださる資本を組み合わせていくファンドを考えていければと思っております。

  1. 人や技術のマッチング

また、この目利きの力があれば、人材のマッチングということもやれるのではないかと思っております。

なにか高い技術・技能を持っている人が、不幸にも働く場を失おうとしていたら、自動車産業内で、それを必要としている企業とマッチングしていく…。

自動車産業の中で、モノづくりを守っていくと同時に、少しでも不幸を減らして、幸せを増やしていく…

こんな仕組みを回していければと考えております。

  1. 移動する価値の再発見

先日、家の外に咲く花を見て元来、春は待ち遠しい季節だったんだと改めて思いました。

寒い日が過ぎ去り、春になれば暖かくなって、人々は、外に出られます。

この時、人はああ、やっと外に出られる!と感じ移動できる楽しみを実感するのだと思います。

今は、外に出られない厳しい冬のような日々が続いています。

その中で、多くの人は「移動する」ことの嬉しさを再発見しているのではないでしょうか。

外に出られること、好きなところに行けることは、本当に素晴らしいことです。

私も、改めて、それを実感しています。

MOVEという言葉には動くという意味もありますが、心を動かす…感動する…という意味も含まれています。

この二つが同じ言葉に込められているということも本当に納得ができると思いました。

この冬が明けた時、多くの人が、今まで以上に、移動を楽しめるよう、我々は、クルマを、もっと素晴らしいものにしていかないといけません。

経済環境も、冬が続いています。

それも、かなり厳しい冬です。

とにかく生き延びなければ、春を迎えることができません。

自動車産業が生き延びていけば、多くの人に、その影響を繋げていくことができます。

私が生まれる前、終戦時の話ですが、戦争で、人も減り、工場も失ったトヨタは、それでも、なんとか生き延びていくために、作れるものは、なんでも作ったそうです。

鍋やフライパンをつくり、更には、工場周辺の荒地を開墾して芋や麦までつくっていました。

スバルでも、農機具や乳母車、ミシン、バリカン等、あらゆる生活品を作っていたとも聞きました。

売る車がない販売店も、食器など、なにかしら生活に必要なものを仕入れ、人々に売っていたそうです。

我々の産業には、生き残るための粘り強いDNAがあるはずです。

なんとしても踏ん張って、生き残っていきましょう!

そして、春を迎えた時…すなわち、コロナウィルスが終息した時…、さあ!これから!外に出られる!という時に、経済をいち早く復活させる一番の原動力になっていきたいと思っております。

冬だからといって縮こまっていたら、足腰が弱ってしまいます。

とにかく今やるべきことを、しっかりやってまいります。

今、我々ができることは、3つです。

医療従事者とそのご家族に感謝し、少しでもサポートをしていくこと

経済を回し続けるために、なんとしても事業を続けていくこと。

そして、春がきたら、その1番の牽引役になるべく準備を進めていくこと。

この3つに、全力を尽くしてまいります。

皆様、よろしくお願いいたします。

本日は、ありがとうございました。

質疑応答

以上

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