クルマと愛とサウンドを語らせたら止まらない2人が、レースの楽しさを、実際のレースやレースをめぐる人たちなどを訪ねながら紡ぐオリジナル連載(#34)です。

自粛とレースと音楽と

2020年の3月から、新型コロナウイルスの蔓延でカーレースも音楽のライブも自粛となってしまった。

横山剣もまた自粛の日々を送っていた。ただ、緊急事態宣言解除後にわたしが会った時は意気軒高だった。インタビュー中、ノリに乗って、なぜか太ももを叩いてリズムを取りながら話に熱中した。

リズムを叩いていたのは、身体のなかに前夜(6月8日)行った生配信ライブの余韻が残っていたせいではなかったか。彼ら11人のCKBフルメンバーは114日ぶりに「インターネットのクレイジーケンバンド」を行ったのだった。

  • 「インターネットのクレイジーケンバンド」提供 : DOUBLE JOY RECORDS
  • 「インターネットのクレイジーケンバンド」提供 : DOUBLE JOY RECORDS
「インターネットのクレイジーケンバンド」提供 : DOUBLE JOY RECORDS

―リハーサルは一回だけ。ぶっつけ本番でした。リハーサルをスタジオでやろうとしても、密集、密閉、密接という三密の場所ですから、集まることができなかったんですよ。それぞれが自分で練習して、ライブの前に一度だけ音を合わせただけなのに…、それでも、やってみたら手前味噌ですが、ブランクを感じさせないという。CKBの活動を開始(1997年)から、114日間もライブをやらなかったのは初めてのことでした。

やってみて、痛感したのはコロナの時代でも音楽が必要とされた喜びです。だって、ねえ、世界中が自粛していて「国境もない、宗教もない、あるのはただ青い空だけ」というジョン・レノンの『イマジン』の世界でした。そして、インターネットライブをやったら、なんと2,000人以上の方が見に来てくださった。なんと、シンガポールや香港からもファンの皆様がコメントを書き込んでくださって…。まさに国境がない世界でした。

でも、ねえ、みんな、自粛太りをすることもなく、ソーシャルディスタンスを忘れずにプレイして。普通に演奏していて、あー、歌詞を忘れていたところもありましたけれど。

(でもみなさんの演奏、ドライブしてました。VIDEOTAPEMUSICさんのピアニカと画像、卒倒しました)

  • VIDEOTAPEMUSIC 提供 : カクバリズム
  • VIDEOTAPEMUSIC 提供 : カクバリズム
VIDEOTAPEMUSIC 提供 : カクバリズム

―いやー、VIDEOくん、なんといってもVIDEOTAPEMUSICですから。名前がすでに才能あります。すばらしい、まったく。今回はVJとして参加してもらいまして、ライブ中に流したイメージ映像はすべて彼が手がけたものです。また、カメラのスウィッチングや、その他の技術的サポートは、彼の所属するカクバリズムのスタッフたちが携わったもので、みんなシャイなんですけれど、とっても才能のある方たちです。えー、そういうわけもあり、インターネットのライブ、状況次第ですが、もう一回ぐらいやろうかなとも思ってます。

(シンガポールからファンが。いいですねえ、しかし、やっぱり生ライブもお願いします。昨日のライブの曲順は横山さんが決めたのですか?)

提供 : DOUBLE JOY RECORDS
提供 : DOUBLE JOY RECORDS

―これ、面白いんですよ。普通のライブはガーちゃん(新宮虎児 第2ギター&第2キーボード担当)が舞台監督と決めるのですが、いいんですけれど、自分がもしCKBファンだったらいまいち興奮しない選曲だったりして…。でも、昨日は僕がやりました。

例えば、出世作である「タイガー&ドラゴン」は絶対に外さないですけど、その他、人気投票で上位の曲ばかりやってもマジックは起きない。敢えて不人気というか、「えっ?」と思うような曲もいれてこそ混沌とした世界を引き出せるんじゃないかと。

(不人気とは例えばどんな曲ですか?)

―いえいえ、野地さん、不人気曲というと、オレが好きな曲なのに、なんだと怒りだす方もいらっしゃいますから、これが不人気曲だとは言えません。それに、不人気曲かと思っていたら、ライブでやると人気になって、不人気曲が人気に曲に変わるということもあります。車も生産中止になったクルマが人気でたりするというのがありますけれど、おんなじです。緩急をつけるというのは曲順を考える時、重要ですね。

それと、ある曲が終わった後のサウンドが次の曲のイントロに結びついている「流れ」というのもあるんです。じゃーん、と終わって、一拍して、とんっとイントロが入る。これが決まるとまた気持ちいいんです。しかし、常にそういう流れではいけない。ある意味、違和感も重要で、聴衆を裏切る流れも意図的に配しておかなければならない。考え出すと面白い。今回、アンコールは「流星ドライヴ」。夏の気分にしたかったので。あえて寂しい感じがする曲にすることもあります。寂しさが募ると、またライブを見に来てもらえるかな、とか。

(インターネットライブはそれがうまくいったんじゃないでしょうか)

「Ivory ep」 6月24日発売 提供 : DOUBLE JOY RECORDS
「Ivory ep」 6月24日発売 提供 : DOUBLE JOY RECORDS

―今のところ、生のライブは10月末の日本武道館から始動しようと思っています。三密を防ぐという形にはなるんじゃないかな。その前に新曲『Ivory ep』を出して、と。

あっ、レースはその前から参加します。7月5日に筑波サーキットで。「筑波ミーティングサマー」という日本の昔の車で走るレースに出ます。

えー、トヨタでなく、今回は日産の車で走るんですが…。

(どうぞどうぞ。日産もトヨタもスバルも。なんたって「カーレース入門」ですから。トヨタMrs.編集者談)

ありがとうございます。レース、自粛中にサーキットだったり、ラリーだったり、昔のレースの動画をずいぶん見ました。レースの映画も見ました。

ラリー、いいです。行きたいです。野地さんは去年、愛知のラリーを見に行ってるんですよね。僕自身は今年の11月のWRCジャパンは絶対に見に行きたいと思っているんですが。11月だから、日本武道館の後で、ツアーが始まっているかもしれないけれど、でも、行きたいです。

ラリーの楽しみ方

GAZOO Racing Company President

話は昨年の秋の愛知のラリーに戻る。そこで、「カーレース入門」の愛読者で、音楽が大好きなトヨタマン、ガズーレーシングのプレジデント、友山茂樹に会った。彼は自粛中はレースに行かなかったけれど、世界各地のWRC(世界ラリー選手権)やルマン、ニュルブルクリンクを必ず訪れている。

豊田市の本社を出て、飛行機に28時間くらい乗って、着いてすぐに酷寒のラリーをプレジデントとして見守る。大会が終わったら、その足で飛行機に飛び乗って、赤道を超え、今度は南半球の国の耐久レースに参加する。飛行機に乗っている間もスマホからレース結果を世界の各地に速報する。

WRCラリースウェーデンにてGRヤリスと
WRCラリースウェーデンにてGRヤリスと

彼に聞いたのは「ラリーの楽しみ方」だった。

(友山さん、サーキットのレースとラリーは観客にとって楽しみ方は違いますか?)

―そうです。ラリーは市販車をベースとし、かつ、お客さまがふだんお使いになっている車の競技です。なかでもWRC(世界ラリー選手権)は世界中のあらゆる気候、あらゆる道を猛烈なスピードで走る。非常に過酷なレースです。しかもWRCの一回はSSとリエゾン区間を含めて平均で320キロくらいもある。それを年間14回もやるんですから。

(車もドライバーもメカニックも鍛えられますね。)

―そうです。人を鍛えて、車も鍛える。そうして、いい車づくりにつなげる。WRCに参加していると、いろいろなことがわかります。たとえば、プロのラリードライバーは路面のミュー(摩擦係数)が非常に低いところ(すべりやすい道路)を安全に、非常な高速で走る。ここから得られるデータはテストコースから得られるデータよりも貴重です。一般ドライバーが滑りやすい路面で車を走らせる時に、どうやったら車を安全にコントロールできるかといった部分に役立てることができる。ラリーは車をより良くするために、貴重なバトルフィールドです。

(バトルフィールド、実にエグい答えですね。)

―なんですか?エグいって?

愛知岐阜ラリー出店

(カッコいい答えだということです。さて、トヨタはトップ(モリゾウ)が自らレースやラリーに出走していますが、友山さん自身はラリーに出場するのですか?)

―いえいえ、ただ、大学生の時はラリーに出てました。まあ、今は出ていません。ファンの皆さんもモリゾウが出ることを心待ちにしています。そう、野地さん、ラリーのサービスパークって、面白いでしょう。お祭りなんです。ここでは地域の特産品まで売っているから、道の駅かショッピングモールみたいなものですよ。

ラリーを開催して、人が集まってきて、地域の特産品が売れたら、村おこし、町おこしにつながります。サーキットのレースとはまた違う形で、ラリーは地域の町おこしになる。

愛知岐阜ラリー出店

(愛知で開かれたラリーなのに、北海道や九州からも来ている人がいました。)

―面白いんです。ラリーに来る人って、サーキットよりも、車がめちゃめちゃ好きな人が多いんですよ。

(どうしてですか?)

―市販車に近いのが身近で楽しいんでしょうね。レーシングカーは特別のものに見えてしまうけれど、ラリーカーは自分が日常使っている車が改造されたものだから、身近なんです。しかも、サーキットだと普通の人はなかなかパドックまで入ってこられない。ラリーは観客には身近な感じがいいんでしょうね。ラリーは地域で支えられています。今回のラリーで、三河のリエゾン区間で、地元の女性が沿道に集まるファンにあたたかいお茶を配っていたそうです。そういうホスピタリティが自然と生まれるのがラリーなんです。

横山さんはこの話を読んで、「もう『この人は車が大好き、イイネ』としか言えません」とのこと。

Getty Images
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―(横山)やっぱり、ラリー見に行かなくちゃいけないですね。そこで流す音楽も重要です。

昭和の頃、スキー場へ行ったら、ゲレンデにグルノーブルオリンピックの記録映画の主題歌、『白い恋人たち』が流れていて、こう、ぐっと来る感じがありました。なぜかむやみに楽しくなって、よーし、スキーをやるぞ、と。でも、うまいわけじゃないですよ。

作曲はフランシス・レイ。監督はクロード・ルルーシュ。鉄板のコンビ。『男と女』の主題歌、ダバダバダってスキャットの曲もフランシス・レイ。監督はもちろんクロード・ルルーシュ。流れるような映像美です。

Getty Images
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それはさておき、レース場でも音楽が流れていると妙に興奮してくるんです。昨年、古賀琢磨さんを訪ねて行ったナスカーの時はハーフタイムにビレッジ・ピープルの『YMCA』が流れていて、みんなでお尻振って踊って最高でした。

あー、だから、レース場で聴く10曲、考えました。これはCKBバージョンもあるんですけれど、そっちは7月に。すみません。

(続きは明日掲載します。)

著者

横山 剣(よこやま けん)
1960年生まれ。横浜出身。81年にクールスR.C.のヴォーカリストとしてデビュー。その後、ダックテイルズ、ZAZOUなど、さまざまなバンド遍歴を経て、97年にクレイジーケンバンドを発足させる。和田アキ子、TOKIO、グループ魂など、他のアーティストへの楽曲提供も多い。2018年にはデビュー20周年を迎え、3年ぶりとなるオリジナルアルバム『GOING TO A GO-GO』をリリースした。
クレイジーケンバンド公式サイト
http://www.crazykenband.com/
野地 秩嘉(のじ つねよし)
1957年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務、美術プロデューサーなどを経てノンフィクション作家。「キャンティ物語」「サービスの達人たち」「TOKYOオリンピック物語」「高倉健ラストインタヴューズ」「トヨタ物語」「トヨタ 現場の『オヤジ』たち」など著書多数
横山 剣・野地 秩嘉

以上

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