クルマと愛とサウンドを語らせたら止まらない2人が、レースの楽しさを、実際のレースやレースをめぐる人たちなどを訪ねながら紡ぐオリジナル連載(#17)です。
アメリカン・シンフォニー
「NASCARはアメリカの文化」。現地に来れば納得です。
僕もタコス食べたし、生バンドの演奏も聴きました。Tシャツやキャップは買おうと思ったけれど、チームやスポンサーが最高にメリメリなグッズをプレゼントしてくれました。これもやっぱりアメリカ文化。その気前の良さは米軍基地が本牧にあった当時の色んなフェスティバルを思い出しました。
午後3時から予選を見て、古賀さんと話をして、ドライバーのへイリー・ディーガンさんの話も聞いて、本番が始まったのが午後7時。終わったのが9時ですから、半日以上、スピードウェイにいたけれど、ぜんぜん飽きなかったし、絶対、またココに来たい!って思いました。
NASCARは僕にとってはシンフォニーです。レースもホットドックも生バンドもダンスもひとつひとつが一緒になって、さまざまな音が交じり合ったアメリカの壮大なシンフォニーになっているのがNASCAR。ただし、洗練されたものじゃありません。そこがヨーロッパスタイルのカーレースとはちょっと違う。ウェルカムでフレンドリーでアバウトでクレイジーなんだけど、運営そのものは緻密で繊細で誠実。むしろそこがアメリカらしくていいんですよね。
レーサー古賀琢麻さんとの対談(構成 野地)
- (写真 : TAKENAO HAYASHI)
- 横山
- 念願かなって応援に来ました。
- 古賀
- 剣さんの応援、待ってました。僕にとって、剣さんは名実ともに応援団長ですから。
- 横山
- 古賀さんとは、とある雑誌企画で一緒に登場したんです。その時の話が実にぐっとくる。古賀さんは小学生で新聞配達しながら、レース資金に必要な100万円を貯めて、中学生からレーシングカートに乗った、と。「以下(略)」で、2016年、10年ぶりにふたたびNASCARに参戦。
- 古賀
- 笑。「(略)」のボリュームが多いです。10年間、会社のマネジメントをしていたのですが、やっぱり乗りたくなって、3年前から始めました。これまではシボレーに乗っていましたが、2019年からはPP1M(パフォーマンスP-1モータースポーツ)というチームに所属して、カムリで参戦しています。ナンバーは77。去年のチャンピオンチームのナンバーです。しかも、クルーチーフはドライバーを優勝させることで知られた人で、「古賀、絶対勝てよ」と言われています。
- (写真 : TAKENAO HAYASHI)
- 横山
- 今日、初めて、アーウィンデール・スピードウェイのコースを見ました。予選でもすでにタイヤが焼けるにおい、爆音で、なんというかエクスタシーに達しました。
- 古賀
- アメリカです。これがアメリカなんです。12歳の時、僕はトム・クルーズの『デイズ・オブ・サンダー』(1990年 監督トニー・スコット)を見て、衝撃を受けて、アメリカに行こう、レースに出ようと思いました。その前からアメリカが好き、アメ車が好きでした。
- 横山
- アメリカ人にとってNASCARはどういったものなんですか?
- 古賀
- 国技です。日本人にとっての相撲と同じ。アメリカ人はNASCARに熱狂します。
- 横山
- 古賀さんがアジア人として初めてNASCARで上位入賞した時はスポーツ面でも大騒ぎでしたね。高見山がハワイからやってきて、相撲で優勝したようなもので…。
- 古賀
- 国技ですからね。なにしろ。
- 横山
- オーバルコース独特の技術はあるのですか?
- 古賀
- 走っているのを見ていただければわかるのですが、コースの上の方(ハイライン)と下の方(ローライン)に分かれます。ハイラインを走った方が速いけれど、ブレーキの操作が必要になってくる。逆にローラインはブレーキを踏まずに回っていけます。ハンドル操作だけやっていればいい。自分のラインをどう保つかが重要なんですが、セッティングもありますしね。
- 横山
- 度胸もいりますよね。
- 古賀
- そうですね。でも、あまりに熱くなったらいけない。それでも、今はただ勝つことだけです。勝つためのステージに自分が来れたことをみなさんに感謝してます。
- 横山
- 決勝はスタンドから大声で応援します。すみません、直前に時間をいただいてしまって。ありがとうございました。
古賀さんと話した後、ドライバーズミーティングも見せていただいたんです。ドライバーにレースの注意をして、質疑応答をするんですが、最後に牧師さんみたいな人が出てきて、お祈りをする。
「レースの安全、そして神の御加護を」
全員、起立して、帽子を脱いで祈る。その場にいた僕らも、もちろん起立、脱帽して祈る。
-
- (ヘイリー・ディーガン選手と)
古賀さんの他に、もうひとり、野地さんがインタビューしました。予選でポールポジションをとったヘイリー・ディーガンさん。なんと17歳、セブンティーン。そして、20数名いた参戦ドライバーで女子は彼女だけじゃなかった。2名いました。可愛いティーンズのレーサー。いやあ、それもまたアメリカですね。なんでもかんでもアメリカですけれど。
へイリー・ディーガン選手(インタビュー 野地)
- 野地
- 予選1位、おめでとうございます。
- へイリー
- ハーイ。どこから?
- 野地
- 日本から来ました。大ファンです。(初対面ですけど…)
- へイリー
- 父はモトクロスのレーサーで、大阪で行われたスーパークロスの大会にも出ていますよ。レースカーファミリーで、兄も弟もレースやってます。私も子どもの頃から父親に教わってレーサーになろうと思いました。8歳からカートのレースに出ています。
- 野地
- NASCARに出ようと思ったのは?
- へイリー
- スポーツカーレーシングの目標ですから。トライバーなら目指すのがNASCARです。
- 野地
- 『カーズ』を見たことはありますか?
- へイリー
- もちろん。何十回、見たかわからないわ。あの映画のモデルはNASCARって知ってましたか?
- (Petersen Automotive Museumにて。映画「カーズ」主人公のライトニング・マックィーン)
- 野地
- はい、ここにきて、それがよくわかりました。では、NASCARのカーレースとしての特徴は何かありますか。
- へイリー
- 他のカーレースとの違いは、ドライバーの技量が試されるレースであること。エンジン、ボディはどの車も同じです。セッティングは違いますが、車の性能はすべて同じ。ドライバーの技術が勝ち負けを決めるレースです。
- 野地
- 優勝するために必要な練習はどういったものですか。
- へイリー
- NASCARではタイヤが滑るのをコントロールすることが重要です。ですからオフロードのダートコースで毎日、走って感覚を磨いています。ダートコースではタイヤが滑りますから、コントロールするコツを覚えることができる。そのコツと感覚をオーバルコースで活かすのです。
- 野地
- 『カーズ』のなかで主人公がダートコースを走る練習をするシーンがありますが、あれは実際にNASCARに出るドライバーがやっている練習なのですね。
- へイリー
- イエス。(にっこり笑う)
- 野地
- 勝つために必要なことは何ですか?
- へイリー
- ペイシェンス(忍耐)。
- 野地
- ペイシェンス?
- へイリー
- ええ。つねに同じラップタイムで周回すること。エキサイトして前の車を抜こうとしてオーバースピードに陥るとスピンしてしまいます。無理をせずにコンスタントに走る。エキサイティングに突っ走るとミスにつながります。忍耐して、最後に勝負をするレースだと思います。
これ読むと、へイリーさん、クールヘッドですよねえ。でも、まだセブンティーンですよ。それなのに650馬力のマシンを楽々と操るわけですから、超人です。
(続きは明日掲載します。)
著者
- 横山 剣(よこやま けん)
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1960年生まれ。横浜出身。81年にクールスR.C.のヴォーカリストとしてデビュー。その後、ダックテイルズ、ZAZOUなど、さまざまなバンド遍歴を経て、97年にクレイジーケンバンドを発足させる。和田アキ子、TOKIO、グループ魂など、他のアーティストへの楽曲提供も多い。2018年にはデビュー20周年を迎え、3年ぶりとなるオリジナルアルバム『GOING TO A GO-GO』をリリースした。
- クレイジーケンバンド公式サイト
- http://www.crazykenband.com/
- 野地 秩嘉(のじ つねよし)
- 1957年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務、美術プロデューサーなどを経てノンフィクション作家。「キャンティ物語」「サービスの達人たち」「TOKYOオリンピック物語」「高倉健ラストインタヴューズ」「トヨタ物語」「トヨタ 現場の『オヤジ』たち」など著書多数
以上