クルマと愛とサウンドを語らせたら止まらない2人が、レースの楽しさを、実際のレースやレースをめぐる人たちなどを訪ねながら紡ぐオリジナル連載(#12)です。
横山剣のレースを百倍楽しむ方法
- (Getty Images 1776“Portrait of Wolfgang Amadeus Mozart by Barbara Krafft”)
(問 では、やっとレースの楽しみ方をうかがいます。まずは出かけていく時です。いつも車で行くのですか。その場合、気分を高めるために聴く音楽はありますか?)
サーキットって都会から離れているし、公共交通機関の駅もないところがほとんどでしょう。モナコとかマカオならともかくとして…。すると、どうしても自分の車で行くしかない。そうなると、何か聴いていきます。
カーラジオをつけて、NHK-FMにするんです。すると何かしらクラシックの曲をやってる。聴いてると落ち着きますね。レースにクラシックが合うとは思わないけれど、なぜかクラシックを聴きながら行ってます。
クラシックを聴いていると、時に妄想がたくましくなる。例えばモーツァルトの曲を聴いていると、セナとプロストが浮かんでくる。モーツァルトは天才ですよね。レーサーだとアイルトン・セナに立ち位置が似ている。一方、サリエリは(アラン)プロストみたいな感じ。まあ、そんなことを考えながらクラシックを聴いています。欧州のモータースポーツはクラシックと質感があうんじゃないかな。
ただ、高度成長期ニッポンのモータースポーツの映像を見ていると、車やレースと相性がいいのはジャズ。60年代、車とジャズには密接な関係がありましたね。
レーサーで音楽家の三保敬太郎さんがテレビの番組、『11PM』のテーマを作曲しているんです。スキャットが入る曲で、三保敬太郎さんの作品ではもっともジャジーでモータースポーツの感じがします。
- (Getty Images 1776“Portrait of Wolfgang Amadeus Mozart by Barbara Krafft”)
- (Getty Images 1971“French composer Francis Lai”)
クラシック、ジャズ、の次にモータースポーツと合うのは映画音楽、しかもフランシス・レイ。6歳の時に『男と女』を見ました。カーレーサーが主人公で、彼が乗っていたフォード・ムスタングのプロモーションみたいな映画です。モータースポーツの流麗な感じが描かれていて、『レーサー、カッコいい、ファッション、カッコいい、車、カッコいい、そして、モータースポーツカッコいい』という記号がちりばめられていた。しかも、あの映画はラリーまで扱っているんだから。
なんといってもフランシス・レイの曲がいい。以後、僕は『パリのめぐり逢い』とか、『白い恋人たち』を聴いて、なんてすばらしいメロディを作る人なんだと……。
(問 横山さんもファンからは『日本のフランシス・レイ』と呼ばれています)
いえいえ。『男と女』、『11PM』ともに高齢の読者にしかわからないけれど、高齢の読者しかわからないのを若い人が感じてくれるとうれしいです。
- (Getty Images 1971“French composer Francis Lai”)
(問 横山さんの曲で、レースへ行く時に聞けばいいのはなんでしょう?)
はい。『あるレーサーの死』は、死だから聴かないほうがいいですね。
(問 でも、名曲です。曲に出てくるフランス語の歌詞がすばらしい)
「シャルル・ド・ゴール、ジュヌコンブランバ、ボンソワール、ドゥ・カフェ・シルブプレ!」……知ってるフランス語並べただけ(笑)。
僕の曲じゃないけれど、セルジュ・ケンズブールに『フォード・ムスタング』『ジャズと自動車事故』という曲があるのですが、『フォード・ムスタング』はいいけれど、後者はやっぱりレースの前はよくないですね。
レーサーたちが着ていたVANジャケット
(問 では、曲はさておいて、レースに行く時に着る服、あるいは持っていくといいものはありますか?)
なるべく肩が凝らないような、緊張しないような楽な服を着て行くことにしてます。モータースポーツのロゴが入ったパーカとか。
これが1960年代だったらVANジャケットですね。生沢さん、式場さん、ミッキーさん、徳大寺(有恒 自動車評論家)さんたちがサーキットで、VANの赤いブレザーで並んでいる写真を見たことがあります。あと、おなじくVANのスイングトップ。ジェームス・ディーンが着ているようなやつですね。あの頃のレーサーはVANでした。
ただ、浮谷東次郎さんは下駄とか草履を履いて、サーキットに来ていたらしい。風変りというか、ちょっと変わってる人だったのかな。
用意するといいもの。
(問 レースに持っていくといいものはありますか?)
観戦の場合は双眼鏡があったほうがいいです。僕は中学のときは必ず持っていきました。富士スピードウェイではグランドスタンドからヘアピンカーブが見えるのですが、例えばスピンしたところを眺めようと思ったら双眼鏡がいる。車が故障した後、ドライバーが下りてくる姿を見たり、アクシデントで救急車が来るところを見たり……。
昔はドライバーの顔も双眼鏡があれば見えたんです。今はフルフェイスにマスクをしてますから、顔までは見えません。昔はジェット型(ジェット機を操縦するパイロットが装着していた)のヘルメットだから、顔も見えました。まあ、オペラグラスより双眼鏡の方がいいでしょう。
カメラもあった方がいいけれど、今のスマホは性能がいいから大丈夫でしょう。でも、できあがりは一眼レフの写真とはやっぱり違いますね。
ヘルメットとかレーシングウェアの話になりますけれど、レーサーの人柄やセンスを表しているところがあるので、そこを見るのも面白い。
ポルシェに高齢者マークつけ独走
生沢徹さんは日大芸術学部の出身で、お父さんは生沢朗さんという画家です。ヘルメットに貼るステッカーの位置とかカラーリングにこだわりがあって、日の丸と丹頂鶴の図柄を選んでいる。ほんとに美意識が高い。車に貼るスポンサーのステッカーも位置とかバランスをすごく考えている。レイアウトが一流です。現在は、ポルシェに高齢者マークをつけてレースに出ているんですよ。高齢者マークをつけてるのにぶっちぎりで優勝するという、ねえ。生涯現役ぶりにもほどがありますよねぇ。
生沢さんとは逆に極彩色のカラーリングに派手なステッカーをべたべた貼って、逆に地味になっているレーサーもいます。それはそれで面白いと感じてます。レーサーの着こなしはその人のキャラクターが出ます。
サーキットもラリーも日差しが強い時のためにキャップ、サングラスは持っていった方がいいでしょう。特に夏は。それから日焼け止めも必要かな。もし、忘れたら、レース場にはいろいろ出店が出てるんですよ。そういうところで買うのも楽しいです。
そう、値段は決して安くはないけれど、でも、そういう出店で自分が応援しているチームのウェアとか買うと、気分はアガります。自分がフェラーリを応援してたら、フェラーリのブルゾンとか。トヨタならガズーレーシング、もしくはトヨタモータースポーツクラブの服を買う。ついでに、同じブランドを着ている人を見つけたら、マークを指さして、イイネ!とかって(笑)。
- (DOUBLE JOY RECORDS提供 横山剣さん私物)
僕はサーキットの出店でステッカーとかワッペン買うのが好きなんですよ。それこそ小学生の頃から、自分のひいきのチームとか、自分の好きな車種とかの出店を見に行きます。ただ、部品は買っても、自分で取りつけたりできないので、部品のメーカーのシールをもらったり、買ったり。シールやステッカーを自分の帳面やノートパソコンに貼ってますね。レイアウトも考えて。いい大人がステッカーを集めるのに走り回るなんてところはサーキットくらいのもんですよ。気持ちは晴海のモーターショーでパンフレットを集めていた頃とまったく変わってないです。
- (DOUBLE JOY RECORDS提供 横山剣さん私物)
著者
- 横山 剣(よこやま けん)
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1960年生まれ。横浜出身。81年にクールスR.C.のヴォーカリストとしてデビュー。その後、ダックテイルズ、ZAZOUなど、さまざまなバンド遍歴を経て、97年にクレイジーケンバンドを発足させる。和田アキ子、TOKIO、グループ魂など、他のアーティストへの楽曲提供も多い。2018年にはデビュー20周年を迎え、3年ぶりとなるオリジナルアルバム『GOING TO A GO-GO』をリリースした。
- クレイジーケンバンド公式サイト
- http://www.crazykenband.com/
- 野地 秩嘉(のじ つねよし)
- 1957年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務、美術プロデューサーなどを経てノンフィクション作家。「キャンティ物語」「サービスの達人たち」「TOKYOオリンピック物語」「高倉健ラストインタヴューズ」「トヨタ物語」「トヨタ 現場の『オヤジ』たち」など著書多数
以上