クルマと愛とサウンドを語らせたら止まらない2人が、レースの楽しさを、実際のレースやレースをめぐる人たちなどを訪ねながら紡ぐオリジナル連載(#35)です。
レーシーな曲
- マスクして密を避けて
横山剣は「レース場で聴くといいのはレーシー(raceから考えるとracyか?)な曲」と語った。
辞書でracyと引いたら、「活気のある、元気のよい、きわどい、みだらな、挑発的な、独特の風味のある」と書いてあった。ちょっと意味が違うと思われる。
そこで、この連載ではracyは「レースやサーキットの空気感がする」とか「独特の風味がある」という意味で使いたい。
では、レース場で必聴の(CKB以外の)10曲。解説はもちろん東洋一のサウンドマシーンCKBのリードボーカル兼作曲家で自粛明けの横山剣氏。
- マスクして密を避けて
「11PMのテーマ」三保敬太郎作曲
- ©NTV 発売元 : バップ
―シャバダバダバダバ、シャバダバダーダバダバってスキャットの曲です。
昔、日本テレビ系列で「11PM」(1965~1990)って番組をやっていたんですけれど、司会は月水金が大橋巨泉さん、火、木曜日が作家の藤本義一さん。
お色気番組で、「子どもは見ちゃダメ」と言われてたんですが、「ダメ」と言われれば見たくなるのが人情で、早く大人になりたい子どもは親に隠れて見てました。
「11PMのテーマ」は番組のオープニングとエンディングに流れた曲で、作曲したのは三保敬太郎さん。「ミホケイ」って呼ばれていた人で、作曲家、ジャズピアニストでありながらレーサーです。慶応大学で、これまたレーサーの福澤幸雄さんの親友。
プレイボーイで、レーサーで、飯倉のイタリアンレストラン「キャンティ」によく出入りしていた。野地さんの名著『キャンティ物語』(幻冬舎文庫)の世界がそこにある。
どこがいいかって言えば、それはもう曲の空気感です。聴いていると、生沢徹さん、福澤幸雄さん、式場荘吉さんといった往年のレーサーでありプレイボーイの姿が浮かぶ。レースへ行く時のオープニングテーマであり、帰りのエンディングテーマにもなるべき曲ですよ。
ちなみに、短縮バージョンは21秒で、新たな編集によるロングバージョンは1分9秒。CDも持ってます。この曲もそうなんですが、ジャズです。ジャジーな曲がracyではないかと勝手に思うのですが、どうでしょう。実際、レースの映画を見るとなぜかジャズがテーマ曲になっていることが多い。私だけかもしれませんけれど。
「サーキットの娘」パフィー
パフィーの曲です。これがなぜracyかと言えば、正解は以前、筑波サーキットで2輪のレースに参加した時、延々流れていたことがあるから。この曲が耳にこびりついているんです。
もちろん名曲です。女子から見たレースというテーマですね。これ、車のレースというよりも、バイクのレースではないかとも思える。パフィーさんのPVを見ると、ふたりがスクーターに乗ってますから。僕がこの曲を聴いた時も、筑波サーキットのバイクのレースに出ていた時でした、あれは。
「スーパーストラット」デオダート
デオダートはブラジルのクロスオーバーのミュージシャンです。スーパーストラットは曲を聴けば「ああ、あれか」という曲。
イントロを聴くと、そのまま「あるレーサーの死」(CKB)に入っていくことができる。僕は曲は知っていたのですけれど、CDは持っていなくて、そうしたら、のっさん(小野瀬雅生 ギター担当)が「持ってますよ」と貸してくれました。
のっさんは車に対する知識が該博というか、すさまじく何でも知っている。しかし、自分自身は免許を持っていないという。
野球に関してもよく知っていて、ベイスターズの曲を作ったり、選手名鑑を暗記しているのだけれど、まったく野球はやらない。
この「スーパーストラット」も、のっさんが好きなギターのフレーズですね。これこそracyな曲で、うきうきしてレースを見に行くのに最高。スキーゲレンデにおける「白い恋人たち」かもしくは「虹と雪のバラード」(トワ・エ・モア)です。ぜひ、聴いてみてください。
「ハードデイズナイト」「ストロベリーフィールズ・フォーエバー」ビートルズ
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THE BEATLES/A HARD DAY'S NIGHT
(ユニバーサルミュージックより発売中)
©Apple Corps Ltd.
ご存知、ビートルズです。なぜ、racyかと言われると、イギリスにシルバーストーンというサーキットがあるんです。ええ、もちろん、行ったことはないのですが、イギリスのレースとなると、ビートルズではないか。
昔、横浜ドリームランドにあったアイススケート場へ行った時の話ですが、場内にずーっとビートルズがかかっていた。だから、アイススケートというと、僕にとってはビートルズなんです。それも初期のロックンロールではなく、後期のストロベーリーフィールズ・フォーエバーとかサージャント・ぺパース・ロンリーハーツクラブバンド。
ジャジーな曲があるんですよ。ビートルズって。行ったことのないシルバーストーン・サーキットに捧げる曲です。
こういう風にサーキットに捧げる曲を次々、考えていけばいいんですね。
「あるレーサーの死」もジャジーなんですけれど、これ、サーキットで流すと、レーサーのみなさんは怒り狂うから、あえてというか、絶対にすすめません。でも、レーサーの曲なんです。
「双子姉妹の歌」ミシェル・ルグラン(歌カトリーヌ・ドヌーヴ)
「娘たちにかまわないで」フランス・ギャル
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ミシェル・ルグラン/ロシュフォールの恋人たち
(ユニバーサルミュージックより発売中)
双子姉妹の歌はカトリーヌ・ドヌーヴの映画「ロシュフォールの恋人たち」のなかの曲。双子姉妹の配役なんですけれど、もうひとりはフランソワーズ・ドルレアックという女優さん。なんとカトリーヌ・ドヌーヴの実のお姉さん。道理でよく似ているわけです。
フランスのジャズというより、明るいシャンソンの曲調でサウンドがおしゃれで、あの時代ならではの空気感がいい。これはもうフランスのサーキットで聴きたい。サルトサーキットとかで聴くといい。
でも、サルトでこの曲を日本人が流してたら、フランス人にとっては「何だろう?こいつら?」といったことになるかもしれません。ならないかもしれませんけど。
「娘たちにかまわないで」は「夢見るシャンソン人形」を歌ったフランス・ギャルの曲。フランス・ギャルはフレンチロリータの走りとも言われている歌手で、よくわかりませんが、フレンチロリータという語感が何とも背徳です。この人以外にフレンチロリータは誰がいるのかと言われたら、それは専門家じゃないので、僕はわかりません。
作曲はもちろん、セルジュ・ゲンズブール。セルジュ・ゲンズブールはみなさんとっくにご存知のジェーン・バーキンの旦那さん。事実婚のようです。「さよならを教えて」(フランソワーズ・アルディ)もゲンズブールの曲です。フランソワーズ・アルディはユーミンさんの「私のフランソワーズ」に出てくるフランスの美人歌手。
あと、ゲンズブールには「フォード・ムスタング」という曲もあります。ジャジーです。ゲンズブール自身はレーサーではない。作曲家、歌手、俳優、無精ひげでタバコをくゆらして、美人にモテる。
レーサーではないけれど、レースに出てもおかしくないような、あの時代のカッコよさを集めた人です。でも、あの時代ってどの時代だと言われると、これまたちょっと困ります。フランスが昭和だった頃ですかね。
「YMCA」ビレッジ・ピープル
「スイート・キャロライン」ニール・ダイアモンド
これ2曲とも、みんなで立ち上がって踊りながら歌う歌です。
「YMCA」は西城秀樹さんのバージョンもいいんですけれど、古賀琢麻さんの応援に行ったカリフォルニアのアーウィンデールで流れていたビレッジ・ピープルの原曲が最高でした。NASCARのハーフタイムで観衆がひとつになったんです。もう、目の前の女子が大きな身体をゆすって、喜びが爆発してるのを感じました。コロナの後の新しい生活様式であっても、みんなで歌う曲って大切なんじゃないかと思います。CKBの曲だと、どうでしょう。「けむり」とか。みんなで歌えませんか?今度、やってみましょう。
「スイート・キャロライン」はラグビー・ワールドカップの時、ハーフタイムになると、この曲が流されて、スタジアム全体が揺れてました。キャロラインっていうのは暗殺されたケネディ大統領の長女。キャロライン・ケネディさん。なんといっても、駐日大使でした。
いやー、CKBのライブに来ていただければ、スイート・キャロラインを勉強して、歌って、大歓迎したはずです。
おっと、ここで9曲です。うーん、どうしようかなと。こういうのはどうですか。
「スカボロー・フェア」サイモンとガーファンクル
- 「Simon & Garfunkel」Getty Images
あんまりサイモンとガーファンクルは聴いたことなかったんですけれど、映画「卒業」のなかで、主人公のダスティン・ホフマンが真っ赤なアルファロメオ・スパイター・デュオに乗ってるシーンがあって、そこに「スカボローフェア」が確か、かかった記憶がある。
レースへ行く時とか、帰る時とか、長い距離をアルファロメオ・スパイダー・デュオに乗って、スカボローフェアをかける。
はい、おつかれさまでした。名曲の数々です。
次はサーキット、ラリー会場で聴くCKBの10曲。乞うご期待。
著者
- 横山 剣(よこやま けん)
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1960年生まれ。横浜出身。81年にクールスR.C.のヴォーカリストとしてデビュー。その後、ダックテイルズ、ZAZOUなど、さまざまなバンド遍歴を経て、97年にクレイジーケンバンドを発足させる。和田アキ子、TOKIO、グループ魂など、他のアーティストへの楽曲提供も多い。2018年にはデビュー20周年を迎え、3年ぶりとなるオリジナルアルバム『GOING TO A GO-GO』をリリースした。
- クレイジーケンバンド公式サイト
- http://www.crazykenband.com/
- 野地 秩嘉(のじ つねよし)
- 1957年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務、美術プロデューサーなどを経てノンフィクション作家。「キャンティ物語」「サービスの達人たち」「TOKYOオリンピック物語」「高倉健ラストインタヴューズ」「トヨタ物語」「トヨタ 現場の『オヤジ』たち」など著書多数
以上