クルマと愛とサウンドを語らせたら止まらない2人が、レースの楽しさを、実際のレースやレースをめぐる人たちなどを訪ねながら紡ぐオリジナル連載(#37)です。

夏だ、レースだ、CKBだ

(横山さんの話を聞いていると、音楽と車は切っても切れない関係だと再確認できます。)

―はい。『卒業』(1967年)も見たんですよ。出てくる車真っ赤なアルファロメオのスパイダー・デュオ。

卒業(Getty Images)
Getty Images

これまた『卒業』を見ていて、ひらめいて、新アルバムのなかの曲『横須賀慕情』に入れたフレーズがあります。患者さんが横須賀の病院の女医さんを好きになる曲といいましたが、残念ながらその女医さんには婚約者がいた。「チョットマッテ、結婚するってホントかよ?寝耳に水だ!」と怒る。そして「だったらオレのクルマはアルファロメオじゃないけれど、キミを奪いに行くぞ、ダスティンホフマンみたいにさ」…。ま、要するに映画の『慕情』と『卒業』が混ざってる歌です。

でも、『卒業』、いい映画ですよねえ。僕はそれまでサイモンとガーファンクルってあんまり聴いたことなかったんです。自分のキャラには無かった音楽だと勝手に思い込んでいたこともあって。でも、一聴すると、すごくいい曲に聴こえちゃって困りました。

車の場合も映画を見て好きになることがよくあったし、音楽もそうなんですね。まさに、「映画」「音楽」「クルマ」という三位一体の恍惚感を感じた日々でした。

スキャットはracy

セリカ1600GT(1970年)
セリカ1600GT(1970年)

―映画を見ていると、自分はスキャットが好きなんだなとつくづくわかりました。『男と女』のダバダバダがいちばん有名ですね。日本だとスキャットの女王と呼ばれる伊集加代子さんとか、ハイファイセットの山本潤子さん、それから「夜明けのスキャット」の由紀さおりさん。スキャットものはなぜかracyに響く。

再三、申し訳ないですけれど、新曲『IVORY ep』はスキャットから入るんです。先にスキャットから浮かんだ曲で。他にも『流星ドライヴ』がそうですね。

そうそう、秋にリリース予定のアルバムでは「セリカ1600GT」という曲が登場します。「流線形のスペシャリティカー夢のセリカ1600GT」という歌詞なんですけれど。

セリカ1600GT(1970年)
セリカ1600GT(1970年)

(CKBの曲にはほんとにクルマがよく出てきますけれど、どうしてなんですか?)

―なんというか、条件反射というか。運転中にメロディや歌詞が浮かんだりすることが多いからかもしれませんけれど、車のことばかりしじゅう考えているからですかね。飛行機とか船も好きで、移動空間が好きなのかもしれません。

レースで聴くCKBの10曲

―というわけで、そろそろサーキットで聴くCKBの10曲。いろいろありますから、何にしようか迷ったんですけど、夏はレースのシーズンでもあるので(今年は残念ながら軒並み中止や延期、そして無観客開催になっちゃってますけど)、夏の気分の曲を集めました。

『ハンサムなプレイボーイ』

『ショック療法』という3番目のアルバムのオープニングナンバーで、「ピビッ、ピビッ」というスキャット?から始まるんですが、ピビッはPBッです。Play Boyの略。

レースの後、飯倉の「キャンティ」でシャンパンを開けていた福澤幸雄さん、生沢徹さん等、当時のヨコワケ・ハンサムなレーサーをイメージした曲で、スポーツカーが出てきます。イタリアやドイツの車ではなく、ロータス・エラン、MG、トライアンフTR、オースチン・ヒーレーなどの英国製のスポーツカーをイメージしてます。60年代のお金持ちレーサーが町で乗るのはイギリス車だと思ったからです。レース場で聴く時もオープニングナンバーとして聴いてください。

『男の滑走路』

車でなく飛行機、滑走路を歌った曲。どこがracyかと言えば、話は長くなりますが、まあ、聞いてください。

滑走路(Getty Images)
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こんなストーリーです。まず、フランク・シナトラの『マイウェイ』を聴いた勝新太郎さんが非常に感激する。勝さんはカバーしてディナーショーなどで歌う。

『男の滑走路』は勝さんが歌っている『マイウェイ』にインスパイアされて、作った曲とでも言いましょうか。で、勝さんは飯倉の「キャンティ」ができた頃から通っていた人で、芸能人としてはペギー葉山さんに次いで、キャンティ歴が長い人とのこと。きっと、勝さんは福澤幸雄さん、生沢徹さんといったレーサーともいろいろ話をしていたんじゃないかと。そこがracyなので、サーキットで聴く10曲に入れました。

僕自身は勝さんの『マイウェイ』が一番好きです。フランク・シナトラさん、杉良太郎さん、加山雄三さん、にしきのあきらさん、セックス・ピストルズの『マイウェイ』も好きです。

『Ivory ep』

『Ivory ep』提供 : DOUBLE JOY RECORDS
提供 : DOUBLE JOY RECORDS

新曲です。出たばかりですけれど、スキャットから始まって、サーキットで聴くにはうってつけの曲。とにかくスキャットから思いついた曲ですから、全体のサウンドを楽しんでいただくしかない。空気感の曲。

話は飛びますけれど、日本の歌謡界で最初にサウンドを意識したレコードはハナ肇とクレイジーキャッツが出した『スーダラ節』(1961年)。それまでの歌謡曲は伴奏と歌。伴奏に載せて歌唱していたもので、伴奏と歌は別々のものでした。それをすべてが混ざり合ったような「サウンド」に仕上げたのがハナ肇とクレイジーキャッツ。ボーカルもまた楽器のひとつとしてレコーディングした、と。この話は野地さんが植木等さんに会った時、ご本人から聞いたとのこと。

その時、植木さんは「スイスイスーダララッタ、スラスラスイスイスイ」とスキャットしてくれたとのことです。野地さんは「人生でいちばんの幸せ」と言ってました。

すみません、話が脱線しました。とにかく3曲目は『Ivory ep』です。

『タオル』

アルバム「SOUL電波」(2007年)に収録 提供 : DOUBLE JOY RECORDS
アルバム「SOUL電波」(2007年)に収録
提供 : DOUBLE JOY RECORDS

夏の曲です。明るい曲ですけれど、どこか寂しさを感じさせるサウンドになっていて…。これはライブでもよくやるのですが、あえて寂しくなる気分の曲にしておくと、もう一度、来て貰えるんじゃないかと思ったりして、演奏しているところもあります。

「また来たい」と言ってもらえるのはバンドマン冥利に尽きますから。あまりサーキットとは関係ないように思われるかもしれませんが、こういう曲も入っていた方がいいと思ったわけです。

『スージー・ウォンの世界』

1989年にロンドン旅行の帰り、香港に寄りましたが、当時は啓徳空港という市街地の空港だった為、その美しい香港夜景とスリリングな着陸、さらにキャセイ航空のテーマ曲、バリー・ホワイトとラヴ・アンド・リミテッドの『愛のテーマ』がひどく心を揺さぶりました。そして、そんな気分と、当時、ロンドンで流行していたジャズ・ファンクのリズムが混ざって機内で生まれたのがこの曲でした。香港を訪れるたびにグッと来るのが湾仔(ワンチャイ)や銅鑼湾(コーズウェイベイ)などアイランドサイドの下町風景。まるで映画『スージー・ウォンの世界』(1960年)そのもの!ということで、同タイトルにて命名。ちなみにマカオ・グランプリの時期になると、香港の街角で世界の一流レーサーに出会うこともしばしば。中学時代にマカオGPを観戦した時、黄色いセリカ1600GTに乗った舘信秀さんが優勝したのが今も忘れられません。

『スージー・ウォンの世界』という映画は大好きでしたが、その映画に感化されて作った曲でもありません。あくまでも湾仔や銅鑼湾などアイランドサイドの下町風景に映画『スージー・ウォンの世界』が重なったというニュアンスなので、そのような曲名にいたしました。

CKBのロング・ワン

『肉体関係』
『イカ釣り船』
『けむり~ざくろ』

クレイジーケンバンドのバイオグラフィーには『肉体関係』について、次のように書いてあります。

『イカ釣り船』『けむり~ざくろ』が聴けます 「青山246深夜族の夜」(2000年) 提供 : DOUBLE JOY RECORDS
『イカ釣り船』『けむり~ざくろ』が聴けます
「青山246深夜族の夜」(2000年)
提供 : DOUBLE JOY RECORDS

「2001年6月には21トラックのマンモスシングル『肉体関係』をリリース。デュエットで菅原愛子+渚ようこが参加。アルバム・リリースのなかった異例の年であり『肉体関係』はCKBのターニング・ポイントを象徴する問題作であった。」

問題作と言われているのはタイトルですかね。小野瀬(雅生)さんのギターがドライブしていて、いいんです。そのまま小野瀬さんはもう一曲『イカ釣り船』のフレーズを弾きだす。しかし、全部やらないで、じゃーんと終わった後に「けむりー」と始まる。これ、キーが合うんですよ。そのままのキーで「けむりー」って歌えるのがよくて、『けむり』の後の『ざくろ』につながる。

念のためですけれど、『けむり』はホルモン焼き店の店内を歌った曲です。『イカ釣り船』の後に『けむり』をメドレーすることは多いです。

さて、『けむり』の冒頭で、「10番 けむり」とコメントするのはNHKの素人のど自慢をイメージしました。

『イカ釣り船』『けむり~ざくろ』が聴けます 「青山246深夜族の夜」(2000年) 提供 : DOUBLE JOY RECORDS
『イカ釣り船』『けむり~ざくろ』が聴けます
「青山246深夜族の夜」(2000年)
提供 : DOUBLE JOY RECORDS

ちなみに『けむり』がまた問題作で、同じバイオグラフィーにはこう書いてあります。

「CK'S時代に演奏禁止とされていた『踊り子』『右手のあいつ』、さらにCOOLS R.C.。

ダックテイルズ時代の名曲の数々を解禁!オールドファンを泣かせた。しかし、新曲『けむり』で一気にドン引きするファンが続出。状況は混沌とし、新旧ファンの間で論争が巻き起こる。」(1997年)

(わたし(野地)はこの『イカ釣り船』から『けむり』『ざくろ』のメドレーを聴くと、つねにビートルズの『アビーロード』B面を思い浮かべます。『アビーロード』B面には8曲のメドレーがあって、ファンの間では伝説の「ロング・ワン(Long One)」、と言われているんですが、CKBの3曲のメドレーはビートルズのロング・ワンにも負けない珠玉のメドレーだと思います)

―はい。でも、それほど大げさな…。

ラスト3曲

8、9、10曲目は次の通りです。

『葉山ツイスト』
『香港グランプリ』
『生きる。』

セドリック(1966年)提供 : 日産自動車
セドリック(1966年)
提供 : 日産自動車

疾走感のある2曲を聴いてからラストナンバーが『生きる。』。まるでライブのセットリストを考えたみたいですけれど、カーレースもライブですから、問題ないです。

『葉山ツイスト』には、フェンダーミラーのセドリック、シボレー・インパラの2台が出てきます。セドリック、インパラともに昭和40年代ですから、1960年代中ごろのそれぞれの車を思い出していただけるといいかな、と。慶応ボーイが自分の父親の愛車(インパラ)を拝借してドライブしてるイメージですが、1966年型のインパラに乗ってた人、現実に何人かいたんじゃないでしょうか。

セドリック(1966年)提供 : 日産自動車
セドリック(1966年)
提供 : 日産自動車

アンコール

『タイガー&ドラゴン』

国道16号線を横浜から横須賀にドライブしている最中に歌詞もメロディーもほぼ同時に浮かんだ曲ですよー。しかも、その時、脳内で歌っていたのは和田アキ子さん!

『本牧ビーチ・フィールド』

本牧に外人ハウスがあった頃、PXの駐車場にはフルサイズのアメ車やYナンバーの日本車が停まってました。熱狂的クルマ好き少年のボクにとってはもうひとつのモーターショーでしたよ。

『透明高速』

「半透明のシボレーが本牧某所を疾走しているのを見た」という、映画「クリスティーン」も真っ青な都市伝説をベースとするポップでサニーサイドかつデロリな感触のモンドなナンバー。信じるも信じないもあなた次第ですよー!

『発光!深夜族』

小学校低学年の頃、横浜日吉の自宅から、実父の経営する会社のあった赤坂や、秘密のアトリエ?のあった本牧まで、当時、女流レーサーを目指していた母親の運転するトヨタ・パブリカに同乗し、実父を迎えにいったものですが、そんな1960年代の港区霞町の夜、本牧の夜、そしてその夜の向こうに無限に広がる深夜族たちのエロでヤングでパンチな世界を子供なりに想像しては悶々としていた想いが念写された楽曲ですよー!

『血の色のスパイダー』

「Spark Plug」(2014年) 提供 : DOUBLE JOY RECORDS
「Spark Plug」(2014年)
提供 : DOUBLE JOY RECORDS

例えばイタリアのクラシック・カー・ラリー、ミッレミリアは戦前から1958年ぐらいまでの名車が数百台参加することで知られていますが、1960年生まれの自分を「足に使うには古すぎて不便」「ミッレミリアに参加するには新し過ぎて不適合」というつぶしの効かないカーに置き換えてペーソスたっぷりに歌い奏でる高速ボッサ。

「Spark Plug」(2014年) 提供 : DOUBLE JOY RECORDS
「Spark Plug」(2014年)
提供 : DOUBLE JOY RECORDS

「なんだ、アンコールが5曲もあるのか?」とクレームをつける方もいらっしゃるかもしれませんが、夏ですから、そこは勘弁していただいて、レースを見ながらですから5曲くらい、すぐに終わります。

曲名のリストをもらったわたしは横山さんにリモートで直訴した。
「横山さん、このセットリストのまま、サーキットでライブやってください」

モニターのなかの彼はthumbs upしていた。おそらく「イイネ」とも言っていただろう。

『マイウェイ』は2004年のLIVE AT STUDIO COASTのDVDに入ってます。

(予定より公開が遅れ申し訳ありません)

著者

横山 剣(よこやま けん)
1960年生まれ。横浜出身。81年にクールスR.C.のヴォーカリストとしてデビュー。その後、ダックテイルズ、ZAZOUなど、さまざまなバンド遍歴を経て、97年にクレイジーケンバンドを発足させる。和田アキ子、TOKIO、グループ魂など、他のアーティストへの楽曲提供も多い。2018年にはデビュー20周年を迎え、3年ぶりとなるオリジナルアルバム『GOING TO A GO-GO』をリリースした。
クレイジーケンバンド公式サイト
http://www.crazykenband.com/
野地 秩嘉(のじ つねよし)
1957年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務、美術プロデューサーなどを経てノンフィクション作家。「キャンティ物語」「サービスの達人たち」「TOKYOオリンピック物語」「高倉健ラストインタヴューズ」「トヨタ物語」「トヨタ 現場の『オヤジ』たち」など著書多数
横山 剣・野地 秩嘉

以上

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