クルマと愛とサウンドを語らせたら止まらない2人が、レースの楽しさを、実際のレースやレースをめぐる人たちなどを訪ねながら紡ぐオリジナル連載(#44)です。
日本武道館ライブを前に
10月30日、CKBは新型コロナ蔓延以後、久しぶりに観客を入れたライブを行う。場所はLED照明などの設置で大改装された日本武道館。なお、同公演はインターネット上で同時生配信される。
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日本武道館のホームページには建てられた経緯について、次のような記述がある。
「日本武道館創建の目的は、我が国伝統の武道を、国民とくに青少年の間に普及奨励し、武道による心身の錬磨を通じて健全な育成を図り、民族の発展に寄与するとともに、広く世界の平和と福祉に貢献することにあります」
舞台に立つ横山剣はCKBのリーダー兼ボーカルであるとともに、「我が国伝統のカーレース」においても第一人者だ。今回のライブは彼がカーレースによる心身の練磨を通じて涵養(かんよう)した精神で堂々の歌唱を行い、必ずや民族の発展に寄与し、並びに世界の平和と福祉に貢献するものになるに違いない。
横山剣は筑波サーキットにおけるレース参加と日本武道館での公演を控えて、車作りと音作りで多忙な日々を送っていた。
前回の車作りの話に続いて、今回は音作りの話だ。
- 野地
- 作詞、作曲が終わった生まれたての楽曲がどうやってCDになり、さらにライブで演奏されるのかまでを伺いたいです。
詞ができた、メロディが浮かんだからといって一週間後にCDができるわけではないのですね。それからまだ、たくさんの作業があるのですね。
横山談(以下 ―で表してある)
―はい。作詞、作曲の次にはデモ音源作りがあります。一言で言えば、デモ音源は金型のようなもの。この段階でアレンジ、テンポ、サイズ、楽器パートをシミュレーションし、小野瀬さんがそれを楽譜に起こす。そしてメンバーが譜面見なくても弾けるぐらい馴染んだところで生演奏を金型に流し込むというのが一連の音作りです。
楽曲づくり一般
ここで解説が必要になってくる。
かつて一曲を作る場合、次のような工程が一般的だった。
作詞家が詞を担当して作り作曲家に渡す。作曲家がメロディをつけて、楽譜を書く。楽譜は五線譜に手書きする。それを見ながら編曲家がアレンジして、伴奏も含めた楽譜を完成させる。スタジオでプロのミュージシャンが演奏して、歌手が一緒に歌う、もしくは演奏を録音したものをバックに歌い、レコーディングする。
ちなみに、曲が先にできることもあり、それを「曲先(きょくせん)」という。歌詞が先にできることは「詞先(しせん)」だ。どちらかといえば、詞先が多い。
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ところが、パソコンが普及して以後、大きな変化が起こる。
DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション Digital Audio Workstation)というシステムが登場したのである。
作詞家が詞を作る。作曲家がメロディを考えるところは同じだが、スタジオにこもらなくとも、パソコン上でデモテープまで作ってしまうことができる。編曲家はデモテープを聴いて、楽器のパートや伴奏を決め、アレンジを完成させる。
また、DAWの登場で作曲と編曲の境界があいまいになったとも言える。
基本的に作曲家はメインのメロディを作る人だ。それに対して伴奏、副旋律を作り、スタジオでレコーディングする時の積極的な担当者が編曲家である。
横山さんの場合は詞と曲を作ることができる。しかも伴奏や副旋律まで頭に浮かぶという。デモテープも作るし、レコーディングでもリーダーだ。つまり、作詞作曲編曲家でもある。但し横山さんは譜面の読み書きが出来ない。そこで、譜面に強い小野瀬さんがデモ音源を採譜し、さらによりよいアレンジやアイデアを提案するという意味では共同編曲者である。
解説が長くなったけれど、以下、横山さんの楽曲制作である。
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- 提供 : DOUBLE JOY RECORDS
―事務所の部屋にプリプロ(ダクション)ルームがあるんです。そこで自分でキーボードを弾いて、アレンジ原案をまとめ、採譜をお願いする前までのデモテープを作ってしまうことが多い。
- 野地
- アレンジというのは伴奏のメロディとか楽器パートを決めることですか?
―はい。主にリズムやコード、ベースライン、その他、伴奏のメロディを決めることですね。
「GT」という曲だとパンパ、パン、パパ、バッバッバって、ホーンセクションの伴奏があります。僕の頭のなかでそういう音が鳴ったのを口で歌って、ホーン担当の(河合)わかばさんに譜面にしてもらいました。このように現場で口で歌って伝えることもあれば、予めデモ音源に思いついたホーンのフレーズを入れることもあるし、丸投げでわかばさんにお任せすることもあります。
- 野地
- 横山さんの場合は伴奏のメロディも原型は自分で考えるということですね。
―そうです。ホーン隊の場合はわかばさんで、リズム隊の場合はのっさん(小野瀬雅生 ギター)にデモ音源、または口頭で伝えます。ギター譜は、のっさんが起こして、ストリングス系の譜面は高橋(利光 キーボード)さんになります。
- 野地
- みなさん、すごいですね。音を聴いただけで楽譜を起こすことができるなんて。
―どうして弾いた音を譜面におこせるのか、わかんないです。僕はもうまったくダメ。楽譜を読むのもできません。うちの小学生の息子の方が楽譜を読める。
ただ、僕の場合は自己流でピアノを弾くので和音はわかります。この音とこの音とこの音で構成されてるのは感覚的にわかる。しかし、コード名がわからないので楽譜で書けるかというと、そういうものではありません。
- 提供 : DOUBLE JOY RECORDS
楽譜になるまで
―伴奏のメロディは曲のメロディと同じように、頭のなかで大雑把に鳴る時と、具体的に鳴る時があります。
具体的に鳴った場合はそのままをキーボードで弾いて、この音をホーンにしてくださいと言えるんですけれど、曖昧にしか鳴らない時は、わかばさんに丸投げすることもある。口でパパーッとか吹いて、この場所にホーンを入れてください。また、メロディすら言ってなくて、スタッカート気味にとか、あと、白玉気味に(笑)。白玉というのは、業界言葉で白い玉の音符のこと。二分音符、全音符など、白丸で書かれる音符のことで、「ホーンを白玉気味で」と言ったら、音を長く延ばしてくれということです。
デモテープをスタジオに持って行って流しながら、いろいろ説明を加えます。すると、ガーちゃん、のっさん、わかばさんが譜面を作ってくれる。うちは楽譜は全部、手書きです。
- 提供 : DOUBLE JOY RECORDS
- 野地
- アレンジの楽譜を作るまでに時間はかかるのですか?
―でも、1曲あたり15分もかからないかな。とにかく、のっさんはめちゃくちゃ速い。ギター、ベース、ドラムの伴奏譜面は速いです。まず、ガーちゃんが音を取って、のっさんが添削して清書書きするみたいな感じです。ま、ここ2年はデモ音源の段階からプログラミング等で僕のアシスタントをしてくれてるパーク君が譜面を書いてくれて、それを現場で小野瀬さんが確認する感じです。
そして、出来上がった譜面で演奏してみて、自分のイメージと違った場合には、たとえばギターや鍵盤のトップノート(コードでいちばん高い音)を、これじゃなくてこっちにしてください、みたいなのは言ったりします。あと、5番目の音は半音上げてみたいな訂正指示をしたり。
ほんとは編曲家のやる仕事なんでしょうけれど、作曲した手前、ディテールまでイメージを反映しないと気持ち悪くなっちゃう。
編曲家のプロの先生に頼んだとして、「横山くん、これが一番だ。このアレンジで行くよ」と言われると、もうやる気がなくなっちゃうので(笑)。
編曲家の方々はとっても優秀です。一曲、丸ごとお願いするのはいいけれど、自分のバンドでやる時は、やっぱりこの音じゃないと気持ち悪いってのがあるんですよね。
レースカーでも、すべてセッティングをまかせた車に乗るより、自分も一緒になってセッティングした方がやっぱり参加意識とやる気が変わってきます。それと同じです。
えー、音楽の話に戻ります。楽譜にしようとして、自分の頭で鳴っていたコードだと現実的におかしいということがあるんです。この音とこの音が当たるのはありえない、明らかにおかしいというのがたまにある。
まだ、自分がベース音を間違えてたりとか。そういうのがあると、のっさんはもう何も言わずに勝手に直してくれる。僕が意図的にやっているわけではなく、間違っているのがわかるんですね。のっさんは、そういうのをいちいち僕に確認しないで、そのまま直しちゃう。ありがたいです。
- 提供 : DOUBLE JOY RECORDS
(続きは明日掲載します。)
著者
- 横山 剣(よこやま けん)
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1960年生まれ。横浜出身。81年にクールスR.C.のヴォーカリストとしてデビュー。その後、ダックテイルズ、ZAZOUなど、さまざまなバンド遍歴を経て、97年にクレイジーケンバンドを発足させる。和田アキ子、TOKIO、グループ魂など、他のアーティストへの楽曲提供も多い。2018年にはデビュー20周年を迎え、3年ぶりとなるオリジナルアルバム『GOING TO A GO-GO』をリリースした。
- クレイジーケンバンド公式サイト
- http://www.crazykenband.com/
- 野地 秩嘉(のじ つねよし)
- 1957年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務、美術プロデューサーなどを経てノンフィクション作家。「キャンティ物語」「サービスの達人たち」「TOKYOオリンピック物語」「高倉健ラストインタヴューズ」「トヨタ物語」「トヨタ 現場の『オヤジ』たち」など著書多数
以上